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「おらァ!こっち向け!」
「…っ!?」
おれは無理やり身を乗り出して出来るだけ君と距離を詰める。
「あのねェ、君今熱出してんの。分かる?熱。多分君の事だからあんまり出した事無いんだろうけど。それ他人に伝染るようなモンじゃないから」
…多分。医学的な事は管轄外だけど、経験則では多分。
「…な、何言って…」
「お前が何言ってんだって話!良いからこっち向けアホ!」
自分でも病人に向かってなんて言い草だとは思う。けどそうでもしないと君はこっち向かないでしょ。おれ知ってるんだから。
「…………」
渋々といった表情で君は体勢を戻す。熱は伝染らないとは言ったけど、それ以上の理由として――きっと、おれには弱ってるところなんて見せたくないんだろうね。だから隠れてやってたんだよね。
…なんでおれから隠れるの。なんでその癖して――おれと目合わせてくるの。
「…藍良。君に迷惑は…掛けたく、ない。僕は独りでも――」
「かっちーん。ヒロくんの癖になに言ってんのォ?ほんとに藍良くんルート封鎖するぞ!良いから食べろ!」
「…っ!?」
独りじゃないっておれに教えてくれたのは君なのに。なんでそんな事言う。
隙を見ておれはおかゆを乗せたスプーンを口に突っ込んだ。しかしさすがにこれは予期していなかったようで、咳き込む君におれは慌ててお茶を差し出す。アニメみたいに急に突っ込んでも大概は食べられません。つまり失敗します。
「うわわ、ごめんヒロくん!許して!?」
口元を手の甲で拭いながら君は尚もおれを見る。多分、まだおれを追い出す文句でも考えてるんだろう。ほんとバカ、今回だけは負けてやらない。…今の君じゃ、なんか調子狂うし。
「…あのねェ、別に君が何言おうともう良いんだから!これ食べて早くいつものヒロくんに戻ってくれる?今おれが出てったら誰が看病するの!」
「……」
「…迷惑掛けるのはお互い様、おれだって心配ぐらいするよ。…おれのせいでもある、し。…それに、君が守ってくれなきゃ誰がおれを守るのォ?」
いつも守られてばかりじゃ割に合わないから、今日だけは頼って欲しい。それだけでも伝われば。
「はいだからこれ食べて下さ〜い。…おれが、作ったげたんだからァ。」
今度は見える位置でスプーンに少量取り、君の口元に近付ける。一瞬ぽかんとした間抜けな表情を見せたけど、君は珍しく素直に口を開いた。
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作者名:冴波せつ | 作成日時:2020年5月4日 12時