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翌朝――パタンとドアの開閉音がして、人がおれ達に近付いてくる気配がした。おれは突っ伏していた顔を上げ、どうだったと訊く。

「…はい、ぐっすり寝てはくれているので…まだ暫くは様子見ですな」

そっか、と小さく返して、おれは腕をぎゅっと握った。部屋で寝ているヒロくんの様子を見てきたタッツン先輩は、おれの隣で腕を組みため息を吐く。

「…情けない話です。思えば一彩さんは我らいちの体力を誇っておられるのですから…緊張が相まったとはいえ収録で疲れるなんて、まず考えにくい。少し考えれば分かる事を――俺は見逃してしまいました」

「…違う。おれが悪いの。皆に連絡せずにほっつき歩いてたから」

「…あのう……止めましょう?過去はやり直せません、今は一彩さんをどうするかを考えませんか…?」

そのマヨさんの一声で、おれ達は頷きあって後悔を口にするのを止めた。ただおれの中では止まらない。

だって。ライブ後もピンピンしてるような体力バカのヒロくんがあんなになるまで、おれはいつも一緒に居ながら気付けなかったんだ。それにとどめを刺したのもおれ。どう考えたってタッツン先輩やマヨさんじゃない、おれが悪いのに。二人は優しいからおれを責めないでいてくれる。

「…そうですな。でしたら、俺が手頃な物を何か作りましょう。…ふむ…おかゆ、などが適しているでしょうか」

「…恐らくは」

分かりました――そう言ってタッツン先輩は今おれ達が居るES共有スペースに備え付けてあるキッチンの前に立った。そしてお鍋を手に取ろうとしたころを、おれが慌てて遮った。

「ま、待って」

「…?藍良さん、何か…?」

「タッツン先輩、おれに…作り方教えて。おれがやりたい」

とどめを刺した張本人のおれがここまで介入するのを君は嫌がるだろうか――いや傲慢とさえ言われたっていい、自己満足で良いから君の力になりたい。守りたいっていつも言ってくれる君の力に。

「…ふふ、そうですか。ならば俺がお教えしますので、焦がさないようにだけ気を付けて下さいね」

「う、うん」

正直料理なんてちんぷんかんぷんだけど。あの子が頑張ってるんだ、おれも頑張らなきゃ。

「…うふふ…仲良しさんですね……本当に」

「きっと一彩さんもすぐ良くなりますよ。神はあなたの善行と思いを見放しはしません」

「…うん。えっと、次は――」

そうやって不慣れな料理を進めている時、マヨさんが徐に衝撃走る話を口にし始めた。

「…私、一彩さんが熱を出した理由を――知っているやもしれません」

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作者名:冴波せつ | 作成日時:2020年5月4日 12時

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