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あっという間に時は流れ、おれ達の合同ライブ『エルダーハンド』当日。

おれは舞台袖でタッツン先輩と壁から顔を出し、順調に埋まりつつある客席の方を覗き込んでいた。

「…わァ、やっぱり『Knights』効果凄いねェ…全員集合じゃないのにおれ達のいつもの倍の集客しちゃってるし…会場変えた方が良いかもって瀬名先輩が言ってたの、合ってたね」

「そうですな…しかし、その分俺達に興味を持って頂ける方が増える機会にもなります。『Knights』との共演も非常に光栄な事ですし、頑張りましょう」

「うん!……あれ?」

話していると、突然視界に早歩きで移動するマヨさんと明らかにその後ろを付いて回る凛月くんの姿が飛び込んできた。二人は無言で、遠まりも縮まりもしない一定の距離ごと一緒にあちらこちらを動いている。

おれはそれをぼうっと眺めながら、すっと口元に手を遣る。

「………タッツン先ぱ〜い」

「風早、動きます」

笑顔を崩さずしてその人は二人に歩み寄りカーテン裏に引き込んだ。…やがて薄ら笑いを浮かべた凛月くんが出てきたのは言うまでもない。

「…………」

一人になったおれはもう一度客席を見遣る。タッツン先輩も言ってたけど、『Knights』効果とはいえこれだけの席が埋まる事を考えると心が躍る。合間を縫ってビラ配りもしたのが良かったのかも。

「…藍良?」

「なに、ヒロくあんぎゃあ!?」

「行脚!?」

とんとん、と肩を叩かれ振り向くとおれの汚い叫び声に仰天したヒロくんが居た。しかしそうなるのも無理はない、今の君がいっとうかっこよすぎたから。

今回は合同という事で『ALKALOID』が騎士、『Knights』がトランプといった風に衣装もお互いをモチーフにしたものになっている。もちろん完全に衣装交換というのではないが、身に纏ったいつもと違う雰囲気が隠れヒロくんファンのおれを惚れ直させるには十分過ぎた。

「どっどうしたのそれェ…」

文字通り口をぱくぱくさせておれは目の前の人の髪を指さす。

帽子が無い故露わになっているその赤髪がきちんとセットされていて。いつもは左耳に掛かる横髪も今日は後ろに掻き上げられ、その増したワイルドさにおれの心臓はばくばくとうるさかった。

「あぁ、これはさっき鳴上先輩にやってもらったんだ。一度断ったんだけどね、いい感じにしてくれるというのでお願いしたんだ。…えぇっと、変かな?」

恐らく慣れないのだろう、空いた左髪を探すかのように長い指で耳を弄る。それすらも愛おしく思えて、おれは興奮気味に口を開く。

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作者名:冴波せつ | 作成日時:2020年5月4日 12時

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