十五眠り目。 ページ15
「……真逆、貴様が来るとは思わなかったな」
中のもう二度と起動しなくなった其れを憂うように、芥川さんは鞄を見詰めてため息をつきながら歩を進めた。
交番を去ろうとしているのだ、彼はもう気付いているのだろう、此処には太宰さんが来ないことに。
足早に歩く彼の足跡を踏みしめながら後をついていく。
彼の声色に滲む落胆に哀しくなって声を少し張った。
「私は芥川さんが来るとは思ってましたよ。
……正直ずっと逢いたかったです、全然逢えなかったので」
まぁ、芥川さんがあの交番を狙うことを知れたのは、樋口さんに盗聴器を仕込んだあの憎むべき彼のおかげではあるのだけれど。
太宰さんがそれを私に伝えたのも、私が芥川さんに会いたがっていたのを知った上で、だろう。
自分は芥川さんを避けている、そんな中で彼に逢いたがっている上に「時を奪う」という異能を持つ姪がいたものだから、丁度良い、と此処に遣わせたのだろう。
太宰さんが絡んだときの、彼の手の平で全てが進行して行く感覚が如何しようもなく苦手だ。
それでも、私の言葉を聞いてふ、と口元を緩ませた芥川さんを見て、此処に来て良かった、と思った。
太宰さんには感謝などしないけれど。
「……相変わらず細いですね、御飯食べました?」
「食べた」
「芥川さん、水道水は食事ではありませんよ」
「……」
「ほらぁ」
こういう人だから、定期的に逢わなければ不安になるのだ。
自愛が足りなさ過ぎる。
……あの人の教育が全く間違ってるとは思わない。
でも彼のこういった性格は、紛れもなくその弊害だろう。
「前から言ってるじゃないですか。
上は使える限りは容赦なく命を下すんですから。
自分くらいは自分を大切にしなきゃ、ですよ」
「……」
無口ではあっても、芥川さんは感情に乏しい訳ではない。
むしろ激情を持つ人で、それを駆り立てるのも、隠そうとさせるのも、全て芥川さんなのだ。
そんな彼の何か言いたげな表情の裏に、少しでも私を思う感情があることを、心より祈っている。
プルルル、と鳴った携帯電話に、芥川さんは私を一瞥してからそれに応えた。
きっと樋口さんからの連絡だ。
これが、太宰さんの言っていた「合図」なのだろう。
「……私も、これでお暇させてもらいます。
またすぐ後で、今度はきっと、太宰さんも一緒に」
二人の会話が終わるのを待たずに、小声で呟いてその場を離れた。
見開かれた芥川さんの瞳に浮かんだ彼に、文句を垂れながら。
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まっちゃ - すごく面白いです!更新待っています (2021年8月17日 14時) (レス) id: bd6a8b3525 (このIDを非表示/違反報告)
すい - はじめまして。つい、一気に読みきってしまいました。 素敵な作品をありがとうございます!! (2020年8月10日 20時) (レス) id: 00923fd203 (このIDを非表示/違反報告)
水団子(プロフ) - キタさん» お気遣いの言葉、ありがとうございます。作者は受験生の身ということもあり、春までは超不定期更新が続くと思いますが、少しずつ更新して行きたいと思っております。コメントありがとうございました (2016年11月4日 4時) (レス) id: 5a4cb24d14 (このIDを非表示/違反報告)
キタ - 続き、待ってます!あ、でも無理はしないで頂きたいです……(汗 (2016年8月7日 17時) (レス) id: 8f0d08bbdf (このIDを非表示/違反報告)
水団子(プロフ) - キタさん» まじですか……光栄すぎて言葉出ねぇです……夢主ちゃんについても、これから明らかになっていく予定ですので、どうぞ生温かい目で見守りください。コメントありがとうございました (2016年7月11日 2時) (レス) id: 851c864111 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:水団子 | 作成日時:2016年5月15日 5時