逃げるは恥だが (ページ5)

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伍ページ5

　翌朝。午前九時に俺は目が覚めた。
　いつも目覚ましとお袋の怒鳴り声でやっと目が覚めるのに、今日だけは清々しく起きることが出来た。あまりにも珍しい現象にお袋はよくわからんが感動していた。その調子でお願いとも言われたが多分明日には元通りになるだろう。
　今日こうやって起きることが出来たのは、心のどこかで佐野にもう一度会えることを期待しているのかもしれない。なんか嫌だけど。
　適当な無地の半袖短パンを着て、すぐに家を出た。あそこの商店街までは距離もあるし、余裕もって行きてぇしな。
　やけに軽い足取りのまま、約束の場所へと向かう。
　商店街近くまで来ると、時間もあってか、かなり人で賑わっていた。家族連れも老夫婦もいたりして、昨日あれだけ怖がった視線はどこにもないことに安心する。
　そりゃそうだよな。昨日の自分はどうかしてたんだ。
　そう昨日の記憶に思い耽っていると、あることに気がついた。

「店って…なんの店だ…？」

　そうだ。そうだった。自分は裏口にいただけだし、あの時どこからどうやって商店街に入ってあの路地にいたのか、全くもって思い出せない。
　詰んだ。どうしてこうも俺は馬鹿で考え無しで、度胸もなくて、ダサい………。
　泣きたくなってきた。
　とりあえずそれっぽい姿見つければいいだろ。となんとか気持ちを持ち直して、とぼとぼ独りで商店街を歩く。
　はーーぁ、なんで俺っていっつもこうなんだ。佐野の言うとーり人間のクズ…。
　ドンッ
　考え込んでいたせいか、何かにぶつかった。
　顔を上げると、そこにごっっついオッサンが立っていた。しかも頬にタトゥー入り。

「すみませ…」
「あー！兄貴！こいつッスこいつ！昨日笑い話にしたクソガキ！」

　と、とりあえず謝っておこう。そう思って頭を下げようとした時だ。
　目も耳だけでなく、五感全てを疑った。巨漢のオッサンの影に隠れて見えなかったが、いかにもな高い声で俺に指を指す男が居た。
　どうみても、紛れもなく、昨日、友達だったやつをボコボコにした一人だった。
　俺の体はその瞬間から恐怖に呑み込まれて行った。身体中から嫌な汗が吹き出してきて、それに合わせて心臓も激しく鼓動する。

「オゥ、ウチのが世話んなったなァ？坊主。」

　逃げる？
　また逃げるのか。俺は。