497・中等部編 花姫殿地下 ページ7
灯りがなく、どこまでも広がる真っ暗な階段をひたすら降り続け、更に長い廊下を突き進んできた棗。
かれこれ何分、歩いているだろうか。
「(どこまで続くんだ…？
真っ暗な上に迷路かよ、どこだ…)」
灯りがないためアリスで炎を出している。息も上がり、呼吸が乱れる。ずん、と身体が重く感じて冷や汗が背を伝った。
しかし、漸く得たこのチャンスを逃してなるものか。
昨今、中等部校長に対しての様々な噂が交錯していた。
信憑性の程は定かではないが、今までの中で最も確信に近そうな情報である。
──今度こそ、絶対に葵を助け出してみせる。
必ず助けると、側にいると誓ったのだから。
「…！！」
余りに長い道のりに、悪態をついた時であった。前方に見つけた牢屋。格子の向こうで見えた影は、一人の少女だった。
後ろ姿だが、漆黒の艶やかな髪を肩口で切り揃え、その髪と同じ黒の着物を纏っていた。背格好も妹と似通っている。
「(葵…！)」
正しく棗が最後に見た妹の、葵の容姿そのものだった。
「葵！」
一目散に駆け出して牢屋の中に入る棗は、漸く見つけた妹に必死で気付けなかった。扉がこうも簡単に開いた事に。
「あお…」
肩を掴んで振り向かせた途端、艶やかな黒髪がずるりと剥がれ、いや、鬘がずれ落ちる。だがその人物は葵ではなかった。
「………のばら…？」
肩を引き寄せた棗に身体を預け、微動だにしない彼女。どうやら意識がないようで、瞼は固く閉ざされている。
「(何でこいつがここに…っ)」
棗の見立てでは、此処には妹の葵がいるはずだったというのに。
先ほど花姫殿の玄関付近にいた彼女が、何故このような場所にいるのか。何故、葵の髪に似せた鬘を被せていたのか。冷や汗が背を伝う。
「のばら、おい。ち…っ
(トランス状態…てことは、こいつ…っ)」
思わず舌打ちをしてしまった棗。トランス状態に陥っているという事は、任務をしていたという事と同意義だ。
どうやらこの場所は、思っているよりも危険な所だったらしい。
「っ！！」
後ろからの殺気に気づけなかった。聞こえてきた他人を小馬鹿にするような笑い声に後ろを振り向く。
「なっつめ君〰︎︎☆
まんまと罠にかかったり〰︎︎、おバカちゃん☆」
「お前ら……っ、」
そこには見慣れた者が３人、棗を見下ろすように立っていた。“罠”という言葉に棗は目を見開かせて驚く。
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作者名：未来 | 作成日時：2023年3月24日 23時
