【カラ松】兄の仮面、キミの涙。

９話　〜Your side〜 ページ10

21時13分。残業コース確定時刻だ。

　今日の仕事は資料整理と資料作成。

　あ、あとゴミを出して掃除。机を拭きお茶を淹れた。

　そして…そんな雑用を経て、数日前にやっと貰えた小さな枠で細やかなコラムを書く。

　私にとって、このコラムだけが心の支え。

　今は時事問題について書いている。でも…私は他に書きたいことがあるんだ。

　『物語』。社会の堅苦しい問題じゃなくて、夢のあるお話を書きたい。

　それを夢見て頑張り続けた。

　そして貰えた300文字の小さな枠。

　自分自身の考えを表現できるのは良い…でも。

　やっぱり、私は小説が書きたい…

　まぁ、叶わないよなぁ、うん。とため息を一つ。

　作成した資料をUSBに移す。…これで本日の業務終了。

　明日も朝が早いから、と足早に席を立つ。

　私の夢物語など、今は話せる相手すらいない。

　こうして妄想や想像にとどめて、雑用をこなしていくまでだ。

　仕事場から家まで約一時間半。

　電車を２本乗り換えて、ようやく最寄り駅。

　帰りも行きも満員で、息がつまる。

　人混みは苦手だ。息苦しいったらありゃしない。


　…もしも、ふと思い付く。

　もしも正式にプロポーズされていたら？

　寿退社かぁ…憧れるなぁ。

　専業主婦。もしおそ松のお嫁さんになれるなら、小説家の夢も捨てる事ができる。


　ふふっ。私、バリバリ主婦やってたかもよ？

　揺れる車窓から見えるビルの灯り。車のライト。

　その景色がだんだん滲んできて、気がついたら涙がこぼれた。

　…いけないいけない。こんなところで泣いちゃった。

　滲む夜景から目を背け、袖で涙をごしごし拭った。

　電車がホームに到着したことを伝える。

　人がぎゅう詰めの車内を、やっとの思いで降車した。

　時刻は22時53分。今日も終電ギリギリ。

　寒くて高く澄んだ冬の夜空。

　ふぅ、と口からこぼれたため息が、白く染まり空に消えた。

　最近ため息多いなぁ…嫌になる。

　真っ暗な夜道を一人歩いていく。

　コツンコツンという私のパンプスの音は、夜の町の雑踏に飲まれて聞こえない。

　ふと、空を見上げる。

　夜空には煌々と輝く三日月と、小さくも懸命に燃える二つの星が見えた。

　…綺麗。

　ぼんやりとした月明かりと、ぎらぎら眩しい街灯が、アスファルトに私の濃い影をつくる。


　しばらく歩くこと数分。家に辿り着いた。

　ドアに鍵を差し込み、のろのろと鍵を開けた。

１０話　〜Your side〜→←８話　〜brothers side〜

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す