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17話 〜カラ松side〜 ページ18

「ま、どっちにせよ後悔しないようにね」

 家を出るときに言われた一言は、かなり励みになった。


「Thank Youだ、チョロ松。…また明日帰ってくるからな」

 チョロ松は分かったよ、と曖昧に笑みを浮かべながら頷き、オレを送り出した。


 がらがら…と戸を引いて外に出る。

 家から離れた途端に、自分の着ている赤いパーカーが嫌というほど鮮やかに見えた。


 家の中では、赤いパーカーを着てもなお「カラ松」として存在することができた。



 でも今は……「“何か”になりきれない物体」のように感じる。

 なりきれなくて、どうしていいのか分からずに彷徨う子羊…



 …などと言っている場合ではない。

 「ただの物体」になりかけた“オレ”を“俺”にする。



 …さて、どうしようか?

 オレじゃなく、おそ松だったらどうするだろうか?



 …きっと誤魔化し続ける。

 そして笑い飛ばすだろうな。



 ………これは一種の「役作り」だな

 不思議と高校時代を思い出した。



 演劇部イチの演技力、なんて持て囃されたが、オレ自身そうは思っていなかった。

 寧ろ自分の実力不足に大いに落胆し、そしてその気持ちを練習にぶつけていた。



 それ故に一公演ごとに役に入り込んでしまう。

 それはオレの長所でもあったが、同時に短所でもあるのだ。



 舞台が終わって数日は、その役にとり憑かれたように自我を失いかける、なんて恒例行事だった。



 ああ、3年の時のロミオとジュリエットなんかは散々だったな…

 なんて思い出して笑えるのだって、『今のうち』だけかもしれない



 …今なら、まだ間に合うだろうか。

 オレは、このままおそ松として生きていて大丈夫なのだろうか。



 ふつふつと湧き始めた不安は留まることを知らずに、オレの心を蝕んだ。



 いずれこの『オレ』は…おそ松に飲み込まれてしまうかもしれない。

 もう二度とオレに戻ることができなかったら、どうするんだ?



 彼女の家に向かう道中。ぴた、と足を止めて考える。

 おそ松の遺体の元で涙を流す彼女の顔がちらつく。


 嗚呼、もう戻れないんだな。



 直感で、ふと思う。

 いや、気がついてはいた。しかし、それは予想ではなくじわじわと現実になりつつあったのだ。



 ここまで来たならもう演じきるしかない。

 一度吐いた嘘は、吐き通す。



 オレは、冷たい空気を大きく吸って、向かい風を浴びながら再び歩き始めた。

18話 〜Your side〜→←16話 〜カラ松side〜



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設定タグ:おそ松さん , カラ松 , 夢小説   
作品ジャンル:恋愛
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シバ(プロフ) - 紫乃原―シノハラ―さん» ほぉ!!!ありがとうございます!!!早速見てきます♪ (2018年1月30日 0時) (レス) id: 1c78cabc1b (このIDを非表示/違反報告)
紫乃原―シノハラ―(プロフ) - シバさん» シバさん!お待たせしました!先程公開してきましたので、是非ご覧ください!よろしくお願いします。 (2018年1月29日 21時) (レス) id: 8760750b24 (このIDを非表示/違反報告)
紫乃原―シノハラ―(プロフ) - シバさん» コメントありがとうございます!続編はただいま執筆中で、公開できる状態ではないんです……ごめんなさい(;_;) もうすぐ公開しますのでお楽しみに! (2018年1月29日 21時) (レス) id: 8760750b24 (このIDを非表示/違反報告)
シバ(プロフ) - 紫乃原―シノハラ―さん» この続編、パスワードですよね…どうすれば良いのでしょうか? (2018年1月29日 20時) (レス) id: 1c78cabc1b (このIDを非表示/違反報告)
紫乃原―シノハラ―(プロフ) - 来夢*゚さん» 来夢さん、はじめまして!なんて素敵なお言葉……光栄です。本っ当に嬉しいです。ありがとうございます(T-T) これからも更新頑張りますので是非これからもよろしくお願いします! (2018年1月10日 21時) (レス) id: 8760750b24 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:紫乃原―シノハラ― | 作成日時:2017年1月7日 8時

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