56話:これだけ ページ9
「吉野先生、これ終わりました」
積み上げられた書類の束の三つ分を計算した私は、次の束をもらおうと先生に声をかける。
「もう終わったんですか? 本当に早いですね」
優しい笑顔で私を褒めながら吉野先生は書類を受け取った。
「ちょっと待っててくださいね」としばらく戸棚をガサゴソしていた先生が、振り返って困ったように眉尻を下げる。
「すみません、Aさん。今週やる予定の計算が全て終わってしまいました。やっていただける物が、もうありません」
……恐るべし、計算機。
先生によると、委員会に与えられている予算などは会計委員会で計算しているため、事務室に回ってくるのは授業用の予算や先生達の出費くらいらしい。
しかも、天女様来訪により滞っていた計算仕事は、二日前に小松田さんと手分けして片付けてしまったばかりだったのだそうだ。
……要は、ほぼ残っていない計算の仕事をかき集めてくれたのがさっきの束三つだったと。
私が文字を読めないばかりに、色々と気を遣わせてしまって申し訳ない。
さっきは大丈夫だと言ったけれど、やっぱり昔の文字も勉強するべきだろうか。
この学園に通っている生徒も全員が家で字の勉強をできる富裕層の子どもではないだろうし、きっと図書室に行けば字の指導書の一つや二つくらいあるはずだ。
そこまで考えて、私はむふふと口角を上げる。
あぁ、早く図書室に行きたい。
「掃除をしていただくには時間が足りないですし、少し早いですが食堂のお手伝いに行ってもらえますか?」
「わかりました」
また戻ってくるので荷物は置いたままにさせてもらって、私は障子に手をかける。
「では、行ってきますね」
「いってらっしゃい」
笑顔で見送ってくれる吉野先生の横で、まだ少し怯えている小松田さんがぺこりと頭を下げた。
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わそ姉大好きリスナー - Ahoy 学校行きたくねェェェェェェ 続編に出航〜♪ (2023年1月25日 9時) (レス) id: 888b3d648c (このIDを非表示/違反報告)
雪(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます!忍たまって鬼滅並みに難読苗字多いですよね笑。尼子先生の出身地の尼崎の地名から取っているそうなのですけれど、私も最初は漢字と読みがなかなか一致しなくて困りました。食満は初見じゃ絶対に読めないと断言できますよね! (2022年8月12日 19時) (レス) id: 23eb6548af (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - マジで夢主ちゃんに同感です。食満って名字、最初は「しょくまん」って読んでしまいますよね。私もアニメで聞くまでしょくまんだと思ってました! (2022年8月12日 19時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年4月28日 21時