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「松田刑事でもあんな顔するんだね」
「あ?なんか文句あっかボウズ」
「やだなぁ!意外だって思っただけだよ!」
勤務中でも構わず煙草をふかせる松田刑事を見上げ、それから、ぞーさんと呼ばれている目暮警部に抱っこされたAに視線を移す。
こうして見ると、あんなにもキャッキャ楽しそうにしている彼女が、俺のように幼児化しているようには見えない。
それに「何者だ」と聞いた時も、彼女が動揺した素振りは見えなかった。
「戻りたいなら」と暗に薬の存在を仄めかしてみたが、それに対しても彼女はキョトン顔。
まさか本当に、素であの推理力なのか?
だとしたらあいつは……シャーロック・ホームズにも負けない、とんでもない逸材かもしれない。
「ねぇ、松田刑事。Aさんってどんな人なの?」
ふと気になって、一番よく知ってそうな人物に聞いてみた。
「……生きるのが下手だ」
「え?」
「そういう環境で育ったせいだろうが、あいつは誰かに認められなきゃ、簡単に崩れちまう。そのせいで自分よりも周りを大切にしすぎて、すぐに傷ついて帰ってくる。なのにそれを全部隠そうとする。……今回のだって、お前は気づいてただろ。あいつは存外怖がりだ」
松田刑事に言われて、トイレに逃げ込んだ時の事を思い出す。
追いかけられた後はケロッとしていたあいつらと違って、Aは常に何かに怯えていた。
隠れている間もずっと震えていて、それは静かにと言った側の俺が、思わず「大丈夫だ」と声をかけてしまうほどで。
隣の個室を見てくると言った時、一瞬だけ掴まれた袖の感覚を思い出す。
……真っ先に囮になると言ったAだけど、本当は、一番怖かったのかもしれない。
「それと責任感が人一倍強い。最近は特に、探偵団の中で一番歳上なことも相まってな。私がみんなを守らなきゃって思ってる。お前も十分守られる側の歳だわバーカ」
「アッハハ……」
「後はな、優しすぎるんだ。死のうとしてた奴の代わりに爆弾の仕掛けられた観覧車に飛び乗ったり、銃を目の前にしても死んじゃダメだって説得したり、轢かれそうな巨漢を突き飛ばして車の前に飛び出たり。……だからだろうな。あいつの周りには、気づいたら人が集まってる」
すげぇ奴だよ。
煙と共に言葉を吐き出した松田刑事が、徐に俺の方を見下ろした。
「なぁ、ボウズ。……あいつのこと、守ってやってくれな」
風に揺れた煙が、藍色の空に消えていった。
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宮野冬姫(プロフ) - それから、158の絶好の場所というセリフが格好の場所になってます (2022年7月10日 21時) (レス) @page12 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
宮野冬姫(プロフ) - 150のパトカーのサイレンですが、ピーポーピーポーは救急車では? (2022年7月10日 21時) (レス) @page4 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
朱夢 - とても面白いです‼️いつも楽しく読んでます。寒いですが頑張ってください‼️ (2021年12月10日 16時) (レス) id: af58c4fc49 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 更新ありがとうございます。しかし本当に警察学校組は若いですよね…。 (2021年12月10日 2時) (レス) @page48 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
とーふ(プロフ) - 更新ありがとうございます!研二くんとじんぺーちゃん、警察学校組の皆と話している夢主ちゃん可愛い!記憶に残ってないのは悲しいですけどね…これからも更新頑張ってください! (2021年12月9日 18時) (レス) @page48 id: a9336fcc7d (このIDを非表示/違反報告)
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