11話 ページ13
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100年前、人を殺して食べるのはやめた。
人と安易に関わらず、藤の木の多い山の開きに住むことにした。
藤が咲き乱れるこの山の空気は人にとって、穏やかで華やかな匂いなのだろう。
しかし、鬼にとっては類を見ない有害な山だ。
だからこうして、この山に住むことにした。
人を食べない。そう心に決めたが、最初の数年はひたすら飢餓状態から耐えていた。
どうしようもない空腹が内側から私を飲み込もうとする。
鬼になって以降口にしていなかった人間の食事をとり、眠り、時に体を誤魔化す為に動物の血をすすった。
家の周りに咲き乱れる藤がいいように食欲を奪い去るまで、そう時間は掛からなかった。
100年の間、人食をせず、睡眠と咀嚼と藤の匂いで私は人の血を見てもなんとも思わなくなった。
山にあった人間の死体を見つけた時だ。
興味本位で腕に小さく噛み付いて、皮と肉を口に含んだ。
『……ん"、おぇ』
胃が受け入れなくなっているのか。それとも精神的拒絶なのか。
久しぶりに口に含んだ人の肉は酷い味がした。
鬼に引っかかれた傷も徐々に治りが遅くなる。
そして格段に能力と強さが落ちていた。
「君のやっていることが俺には理解できないよ、A」
逃げて隠れて数十年目、虹色の目をした鬼にそう言われた。
「君はあの方の役に立っていた。君は鬼で、人間を食べる。これは人と豚の関係だよ?」
「何をそんなに贖罪の意識に駆られるんだ?」
A、A、A……名前を呼ぶ声が反響する。吸い込まれていく。
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『はっ……また寝てたんだ』
調子が良いとも言えない。常に眠気がつきまとう。
傷は負えど、正常ではないが平常だった。
布団で寝る少年の顔見て私は安堵した。
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時