さよならにブライダルベールを添えて。

7話 ページ9

貴方side



来ると思っていた音がなくて、うっすら目を開ければ
長髪の男性が拳銃のリボルバーを押さえていた。

彼らに近づき会話を聞いてみると、
どうやら長髪の男性は景くん達の味方らしい。

ああ、よかった…と詰まっていた息を吐き出した。
長髪の彼がうまく組織？に誤魔化してくれれば、
景くんはまだこの先も生きていられる。

なんて気を抜いた瞬間。

また聞こえてきた階段を駆け上がる足音。
長髪の男性がそちらに気を引かれた隙に、
景くんは拳銃を発砲した。



【…っひ、】



弾けた音と銃弾は携帯と景くんの胸を突き抜け、
紅い血がそこらじゅうに飛び散った。

ずるずると壁を伝って崩れ落ちる景くん。
最後まで少しだけ光が残っていた目は
こちらを向いたあと寂しげに揺れた。



扉が開かれる音とともに聞こえたのは、
もうひとりの幼馴染である零くんの声だった。

その時気づいてしまったのだ。

景くんは零くんの足音を敵のものと勘違いして
自ら死んでしまったのだと。

ああ、こんなもの見たくなかった。
誰が好き好んで幼馴染の死ぬとこなんか見るか。
忘れたくて、もう勘弁してくれと駄々をこねて
目の前の光景から顔を背けて目を固く瞑った。








また、瞬きをひとつ。

いくら抗ってもこの瞬きには敵わない。
固く目をつぶっていたはずなのに、
また目を開けてしまった。



夜明けを知らせる陽の光が静かな街を照らす。
動き出す前の街の中を歩く2人の男の人。
片方は知らない若い人だけど、もうひとりは、



【伊達さんも、かぁ…】



警察学校時代を共にした我らが班長の彼。
眼の前に立っている2人は仕事終わりか
いつもより雰囲気が軽い。

こっそり話を聞いていれば、
結婚する話まで出てきててちょっとびっくりした。

手帳に挟んである婚約者の写真を見せてくれるらしく
彼は警察手帳を胸ポケットから取り出したが、
滑ったのか疲れか手帳を落としてしまった。

身長が高い彼らがしゃがんだことで気づいた。
道路を走るトラックがこちらに寄っていることに。
よく見れば運転手は下を向いている。

きっと運転手はこちらに気づいていない。

ああ、やっぱりか。と思いながら一歩下がると、
何を思ったか彼は一度こちらを振り返り、
そのまま眼の前でトラックが直撃した。



耳に響く大きな音と、流れ出る血の鉄臭さに
頭がだんだん痛くなる。



【もう、勘弁して…】



小さく呟いたその声は
鳴り響くサイレンと共に風に乗って消えていった。

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