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10年後。02 ページ14




「綺麗だね。」


その言葉に、俺は静かに頷いた。
白。辺りに降り注ぐ幸せの嵐が、この空間を満ち足りた幸福感でいっぱいにしている。
誰を見ても、みんなが笑顔だった。
息を吸い込む度に、このふわふわした柔らかな幸福感が肺を満たす。

手に持っていたシャンパンが、シャンデリアの光に照らされてキラキラ輝いていた。


「いつこっちについたんだ?」

「昨日だよ。」


今やってるプロジェクトの報告書に時間がかかって。
そう言って相変わらず穏やかな笑みを浮かべる小塚は、
フランスと日本の時差をも感じさせないほどゆったりとした雰囲気を纏っていた。
7時間もの時差があるのだから、大変じゃない訳がない。仕事を持つ大人だ。
それなのに仕事を詰めて遥々日本にやってきた理由に、俺は苦笑した。
何年経っても、姫の言う事には何だかんだ言って従ってしまうのだ。


「若武のほうこそ、大変だっただろ。」


それは俺にも言えることだった。
思わず零れる笑みごと、シャンパンを流す。


「MVPプレイヤーがこんなとこにいて大丈夫なの?」


大丈夫な訳がない。マネージャーからも上からも何度も止められた。
それなのにまだ勝利の余韻が溢れているあの国から、
海を越えて久しぶりに日本の地を踏みしめたのには、理由がある。


「だって、見たいだろ。」


ずっと先、特に人だかりが出来ている場所を顎で指せば小塚は何か思うのかゆっくりと目を細めた。

懐かしい顔を見たからか、俺の心にはかつての思い出が蘇っていた。
全てのことに夢中で、なんにも捕らわれることなく、我武者羅にただただ突っ走っていた、あの頃。何の責任も、重みも知ることなく笑い合えた、魔法のような時間。
怒ったり、悲しんだり、苦しんだり。あの頃見ていた様々な感情が、
ぐるぐる混ざって胸に押し寄せてくる。


「若武は、」


遠くを見つめた小塚は、相変わらず穏やかな声をしていた。


「まだ、アーヤのこと好きなの?」


手の中のシャンパンゴールドが、静かに輝いた。


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ショートピース - 最後まで感動してしまいました (12月3日 21時) (レス) @page18 id: 863f8c46c7 (このIDを非表示/違反報告)
Laso - 深い愛情が感じられました。この作品、何回読んでも胸がジーンとします。若武の暖かい優しさに、何度泣きそうになったことか…。感動をありがとうございました! (2019年4月4日 13時) (レス) id: 5cf405873d (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - あけぼの7110さん» 失恋は辛いですよね……どんなに時間をかけてもいいので、小説に書いたように自分の気持ちを大切にされてくださいね。本当に嬉しかったです。意欲を貰いました……ありがとうございました<(_ _)> (2017年7月26日 19時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
Kobato*(プロフ) - あけぼの7110さん» あけぼのさん、届いたコメントを読んで今までにないくらいに本当に嬉しかったです。私の書く小説を通して、誰かに何かを伝えられたら何かその人の心に影響を与えられたら、と思いながら書いているので、そう言っていただけて本当に勇気をもらいました。 (2017年7月26日 19時) (レス) id: 1a71bdddc1 (このIDを非表示/違反報告)
あけぼの7110(プロフ) - すごく泣けました(T ^ T)若武の気持ちに少し共感する自分がいました。私もつい最近失恋してしまったんですけど、若武の十年後の話で私も少しずつでいいから進まなきゃと思いました。 (2017年7月25日 19時) (レス) id: 744a83138f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:Kobato* | 作成日時:2017年6月12日 18時

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