シャングリラに綴る戯曲【掃き溜めの星】

◆小話:必然的要因の日常随想録 III ページ4

・二人が喧嘩している様なしてない様な話。
・よく読んでみると、ある事が分かる会話文。

＊＊＊

「斎槻さん、リンゴ剥いてください。そして、ウサギさんにして下さい」
「いきなり何だ。自分でやれば良いじゃないか」
「カッティングに関しては斎槻さんに勝る人はいないかと。ほら、いつもナイフ握ってますし、きっと綺麗なウサギさんを作れると思うんです」
「凄いこじ付けだな。そもそも台所は女が立つ場所だろう?」
「うわー、それは男女平等なんちゃらに違反しますよ。全世界の女性の皆さんに謝って下さい」
「嫌だね。それに男女平等は有り得ない。国の法にも触れてない」
「意地悪過ぎです。兎に角ウサギさんが食べたいので、早くやっちゃって下さい」
「今の宙岡さんの話聞いたら、山にでも行くのかと思われそうだね」
「ねぇ、台所立ちたくないからと言って、話を逸らさないで下さい」
「意味も無く喚いているのは君だろ。 全く、これだからガキは嫌いなんだよ」
「よくそんな事が言えますね。斎槻さんも人の事言えませんよ。そうやって台所に立つ事をゴネている状況が既に子供の境地!」
「違うよ。僕は只、このリンゴの為だけに台所に立ちたくないだけだよ。分かるかい? 時間の無駄という奴だ」
「だから、それは言い訳だって言ってるじゃないですか。もう、ウサギの彫刻レベルに林檎を削ってくれて構わないので、リンゴウサギさんを作って下さい」
「いやいや、木材じゃないんだから。食材で遊ぼうとしない」


「……只の喧嘩か?」
「違うわ、るぅちゃん。しりとりしてるのよ」
「は?」
「集中的に“い”で攻撃するひさちゃんも凄いけど、それを上手く躱すいっちゃんも凄いわね」
「え? あ、ちょっと待って」


「いや、待って下さいよ。何で私が怒られてるんですか。悪いのは斎槻さんでしょ。物凄く腑に落ちません……ねぇ、しりとり辞めませんか? 疲れました」
「確かにな。それとリンゴ食べたいんだろ? 貸してみろ、僕がやるから」
「ラッキー! 有難う御座います。と言うか、この押し問答に意味はあったんですかね……あ、凄く上手です。今度時間があったら、大根の桂剥きして下さい」
「意味も無く食材を犠牲にする宙岡さんも中々……それと、これどうかな?」
「な、なんてリアルなウサギの彫刻……って、結局斎槻さんもリンゴで遊んでるじゃないですか。リンゴの残骸に謝って下さい」


結局、“ん”を言うのを頑なに拒んだ二人はこの後も延々としりとりを続けていた……by R・A氏。

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