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だが来てみたものの、数分前までは、正直来なければ良かったと思っていた。
忍装束のまま行くわけにも行かないから、手近な店で上下を買い揃え、ついでに目立たないようにと黒いキャップも被る。
それでも、忍界の英雄というのは、伊達じゃないらしい。
会場に足を踏み入れるやいなや、警備をしていた中年男性に声をかけられ、屋台を見て回れば若い男女に取り囲まれる。
これでは他の人に迷惑が掛かってしまうと、やむなく本会場を後にし、少し離れた土手までやってきたのだ。
こんなことがあると、必ず自分は、自分という人間を疑問に思う。
幼い頃、里の大人達に迫害され続けて、表ではいつか認めさせてやると豪語しながら、自分は幼いながらにいつか普通の人として過ごしたいと、裏で密かに願っていた。
初めての中忍試験に始まり、数年前の大戦を経て、自分はもう普通の人になれたかもしれないと、僅かに思った。
しかし現実は表の自分が望んだ状況、里の大人のみならず、ほぼ世界中の人間から英雄だともてはやされる結果となった。
誰にも知られることなく、本当の自分がひっそりと抱え続けた夢は、ついに本物の夢となって押し寄せる期待と尊敬の眼差しに串刺しにされ崩れ去ってしまった。
自分の頭上の遥か上では、ドンッと低い音を轟かせて光の花弁が落ちてくる。
一輪の花は一時の夢となって煌びやかな光を空に散らせた。
それは、まるでナルトの中にあったはずの夢のようで。
幼い頃は、現実なんて何も知らず、その純粋な心のうちに色とりどりの花を描いていた。
『大人になるということは、己の中の何かを捨てていくことだ』
そんなことを、誰かに言われたかもしれないし、言われなかったかもしれない。
それでも、自分はここまで歩んでくるのに、何をおいてでも貫き通し守りたかったもののために、数え切れないほどの何かを、まるでこの険しく困難な道のりの軌跡を描くように、少しずつ、少しずつ削り取り置き去りにしてきた。
今更振り返ったところで、それがどんな色をして、どんな形に咲き、どのように散ったのか、その片鱗でさえ思い出せない。
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作者名:Elle | 作成日時:2019年7月29日 13時