探偵達はカフェにいる【オリジナル】 (ページ6)

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アドニスに“おまかせ”をページ6

　店によく来る常連の中で、もっとも美形の男が居る。老若男女問わず目を惹く魅力を持ち合わせた人。なんでこんな店に足しげく通ってくれるのか不思議で仕方がない。

「今日はどれにしますか、アドニスさん」
「そうだなあ……Aさんのおまかせにしようかな」

　ニコッと笑む姿の一つでさえ映える人、アドニス・アペリティーヴォ。３７歳のミュージカル俳優で、あのムジカさんと同じ『劇団カンシシオン』に勤めている。１８歳まで主にテレビ俳優としても活躍していて、今でも液晶越しにその美形の演技を拝める。彼を始めて見たのは、ゴールデンタイムに放送していた刑事ドラマの中だったと思い出す。適当にザッピングしている途中にあの顔面が出てきたら、そりゃリモコンを動かす指も止まるってもんですよ。

　おまけに彼も探偵として活躍をしていて、ムジカさんと事件を解いた時には、それはそれは良いコンビネーションだったと風の噂で聞いた。美形はなんでも持っているなあ、と羨んでいた時期もあったが、探偵として味わった苦汁は私の乏しい語彙力では表せられない程に壮絶だと知った今では、到底そう思えない。ああやって明るく振舞える事自体が凄い。

　さあて、おまかせか……どうしようかなあ……。コーヒーや紅茶は前の三話でやっているから、他の飲み物にしよう。でも何が良いんだろう、美形って何飲むの？ミネラルウォーター？え、私プロなんだよ？プロが「マスターのおまかせ、ミネラルウォーターです」とか言ってコップ一杯の水を渡してお金を取るの？おいおい水商売じゃないんだぜ、いや水で金を取るから言わばコレも「水商売」なんつって、とか言ってる場合じゃないんだよ！ハア……下らん事しか考えないから寝不足っていけないわ……

　ええと、確か野菜ジュースは苦手だったはずなんだよな、彼って。野菜自体は好きなのにジュースは嫌いなんて変わってるなあ、理由を聞いたら「汁にするな」だそうで。汁て、他の言い方なかったんすか。
　仕方がない、ここは一つ黒ごまバナナスムージーでも作るかな。前にネットで見てから作ってみたかったんだよな。えーと、バナナと黒ごま、牛乳、砂糖に氷……よし、新調したミキサーに入れて……完成！もし好評だったら店のメニューにいれよう。

「お待たせしました、マスターのおまかせ、黒ごまバナナスムージーです」
「お、スムージーとは意外だった。ありがとうAさん」

　コップを手に持ってスムージーを飲む姿でさえ様になる美形が、うちの常連だってさ。考えられる？こんな事。マスターってのは面白いなあ。