運命198＃ 応援 ページ30
.
喉が痛い。乾いた空気が肺を焼く。四周目に入ったところで、Aは自身の体に違和感を感じていた。
ズルズルと重くなっていく体。おかしい。いつも十キロ走ってるってのに。
「あ……！？」
ガクンと膝の力が抜けた。何とか転ばないように踏ん張り、事なきを得る。しかし、やはりこんなことは初めてで、Aは困惑していた。
これはAが後から、鬼道にお叱りを受けた時の話である。十キロ走るのが余裕だからと十倍のスピードで走るなんてプロのランナーにもできることではない。42.195キロ走ることができるマラソン選手たちが、四キロなら全力疾走できるとでも。いいや。
いつもより速く動いた体は急激に疲労していく。
鬼道のクラスの陸上部長距離ランナー、月居浅葱はそれを分かっていた。ここまでAの後ろについて空気抵抗を極力減らし、体力を温存してきた、「体力」に関するスペシャリスト。
順位が逆転し、ワッと盛り上がる。
だぁクソ……！！ ここで一位なら一組を抜けるってのに。
「Aさん、頑張れ！！」
「！」
アキナシ。苗字を漢字で読んでしまうととてもじゃないが覚えられないので、頭の中でカタカナ表記にしている。
さっき彼女が必死に繋いだ襷だ。任せろと言った手前、負けるわけにはいかない。
「くっ！」
「！」
スピードを上げた。月居に並ぶが、内側を取られているため中々抜けない。
「行けー、Aー！！」
「浅葱っ、一年なんかに負けんなー！！」
すぐ隣に感じる荒い息遣い。心臓の鼓動。重なる足音。そうだよ、あんただって疲れてんだろ？ 条件は同じ。あたしにだって、勝機はある。
歓声を受け入れる暇などない。これだけの声が飛び交っているというのに、Aの頭の中は静かだった。無音。そうでないと、恐らく力尽きて倒れる。視界にカラフルな観客席など映しようもなかった。
なかったはずなのに。
「！」
Aの視界の端に、鬼道だけが映った。
体操着姿にゴーグル、鉢巻をつけて、腕を組んだ佇まい。指先から爪先まで、見えようはずもないのに鮮明に見えていた。
形の美しい唇が動く。
「A」
頑張れ。
──ゴールテープが切られた。一年二組が、ここにきて一位に躍り出た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 59人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「イナズマイレブン」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
杳覇(プロフ) - 初見朧さん» 初見朧ありがとう！！！ ああああ感動してくれた！？ うっ、嬉しい……！！ 頑張ります！ ありがとね！！ (2021年8月13日 11時) (
レス) id: 1cd5a8a31d (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - 白目黒口さん» しろくろありがとうーー！！ ひえ嬉しいです\(//Д//)/ 毎秒更新ww できるだけいっぱい頑張ります！！ (2021年8月13日 11時) (レス) id: 1cd5a8a31d (このIDを非表示/違反報告)
初見朧(プロフ) - 続編！！！待ってました！！！前章の最後の蓮水ちゃんとユリカちゃんのところでうわあああああ(語彙力)ってなりましためっちゃ面白い。更新頑張ってね！応援してます！ (2021年8月13日 11時) (レス) id: 2aa92eadb7 (このIDを非表示/違反報告)
白目黒口(プロフ) - ああああ続編ッ！おめでとう(=´∀｀) 出だしから最高です！！ 無茶しない程度で毎秒更新()頑張ってください！ (2021年8月13日 10時) (レス) id: c29c1a0e83 (このIDを非表示/違反報告)
杳覇(プロフ) - 蒼乃さん» さすあお！！ ありがとう！！ そうですね、イチャイチャさせますよとことん(( むしろここからもまだ本番感もあるというか、れんの成長に関わる部分になってくるので、気長にお付き合い頂ければなと思います！！ がんばるねー！！ (2021年8月13日 10時) (レス) id: 37d55cd9aa (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：杳覇 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Detectivec4/
作成日時：2021年8月13日 10時
