第肆拾伍章・「会いたくないから」 ページ45
「・・・・っ・・・・」
地面に打ち付けた頭に片手を当てながら、ゆっくりと体を起こす。
近くに転がった籠の中身は幸い出ていなかった。
軽やかに響く足音が、そう遠くない場所から聞こえてくる。
私は籠を拾うと、再度逃げるようにして走った。
何故逃げてしまうのかなんて、分からない。
逃げたいから、逃げる。
会いたくないから、会わない。
ただ、それだけ。
神官さんは何も悪くない。
神官さんは私の心配をしてくれたんだ。
なのに何故、私はあんな言葉を返したのだろうか。
「・・・もう・・・、ほんと、馬鹿だなぁ・・・私・・・っ・・・」
馬鹿。嫌い。嫌だ。
走りながら、呟く声。
その言葉は吹き抜ける風に消えていく。
*
ちりん、という、扉に取り付けてある風鈴の音と共に、その扉は開いた。
その部屋に入ってきた私に気づいた、純白の白衣を着た薬室長―ルシアさん―は
薬品を整理していた手を止め、こちらに歩み寄ってくる。
「Aさん、御苦労様〜! 暑かったでしょう?」
にこにこと、向日葵のような輝かしい笑顔で、私の持っていた籠を取る。
そしてメモに書いた通りの薬草が採集されているのを確認すると、「合格です」と笑った。
――この部屋は、ルシアさんの部屋。
寒色系や中間色の物が多いこの部屋は、何処か涼しい感じがした。
真っ白なカーテンが、風に揺られている。
そんな空間の中、私一人だけが暗い表情をしていた。
それをいち早く察したルシアさんは、優しげな表情をし、尋ねる。
「何かあったのですか?・・・・・・・ってAさん、怪我してるじゃないですか!!
血が・・・血が出てますよ!? 早く手当しないとー!」
ルシアさんは何かあったのかと尋ねた後、
私の切れた右頬を見、血相を変えて部屋のある場所へ走っていく。
途中、床に置いてあった沢山の資料に滑って転び、「い、痛いー・・・」と声を上げながらも
救急箱を見つけ、それを持ってくる。
窓に映った、自分の暗い表情を見る。
右頬は一筋の切れ目が入っていて、そこから真っ赤な血が流れ出ていた。
恐らく先程山で転んだ時に切ってしまったのだろう。
ルシアさんは私の右頬の切り傷部分に「ちょっと我慢してくださいね〜」と言い、
消毒液で切り傷部分を消毒する。
垂れた消毒液を布で拭き取ると、真っ白なガーゼをあて、テープでそれを止める。
それらの手当が完了すると、ルシアさんは「よし」と呟いて手当を終えた。
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あぉぞら - すいません!紅覇くんの消してしまいました…。短編集書いてるので、良ければそちらを…!すいません!玲琉.さんの作品、大好きなんでこれからも読ませて頂きます! (2015年6月22日 1時) (携帯から) (レス) id: 0a5444ed6a (このIDを非表示/違反報告)
玲琉.(プロフ) - あぉぞらさん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえてすごく嬉しいし励みになります・・・! あぉぞらさんの小説は時間があれば是非読ませて頂きます・・・! (2015年6月9日 18時) (レス) id: 7d3c1dd707 (このIDを非表示/違反報告)
あぉぞら - 私、小説の一気読みはしないんですが、この小説は面白すぎて一気読みしました!私も紅覇くんの小説かいてるので、良かったら見て下さい! (2015年6月9日 1時) (携帯から) (レス) id: 0a5444ed6a (このIDを非表示/違反報告)
もちづき。(プロフ) - 玲琉.さん» ひえええぇありがとう・・・!!発想力というか妄想りょ((ゲフンゲフン。うん!ちょっと息抜きとかに読ませてもらうね! (2014年12月29日 14時) (レス) id: 8ea19f9ae6 (このIDを非表示/違反報告)
玲琉.(プロフ) - もちづき。さん» 来てくれて有難うー!!!!つきちゃんは文才あると思うよ^^っていうか恋愛のシチュエーションとかの発想力がすごいと思う!この小説はマギ知らなくてもわかる内容だと思うよ・・・!多分・・・!良ければ全部読んでやってね()綺麗な文章とか何それ嬉しすぎ>< (2014年12月29日 14時) (レス) id: 754b0bfd10 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玲琉. | 作成日時:2014年4月4日 18時