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第弐拾肆章・「空虚」 ページ24

*

寝台にもたれかかりながら、虚ろな目に映る景色は

誰もいない、真っ暗な闇の空間―否、僕の部屋。

その空間は、ただただ「空虚」で満ちていた。

そして僕の心も空虚で満ちていた。

食べ物を口にすることも、動くことも、眠ることでさえもしようとは思わなかった。

瞬きをするたびに、少し前のAとの出来事が脳裏に浮かぶ。

だが、後悔をしているわけでもないし、何とも思わない。

なのに何故、こんなにも思い出しては苦々しい気持ちにならなくてはいけないのか。


最近は外に出ることも少なくなった。

人と会うことも。

Aとはこの前まで見かけたりしていたけれど、完全に無視をした。

自分でも分からない、この感情が溢れ出しそうだったから。


"煌帝国第3皇子"としての仕事は、朝に片付け、部屋の扉の隙間から仕事の書類を入れて

従者に炎兄のところまで持って行ってもらうことにしている。

だから従者とも会うことがない。

朝昼晩の食事は部屋にあるミニ冷蔵庫に溜め込んである。


「千・・・鶴・・・」


君の名前を、口にする。

いつだって忘れたことがない、君。


Aに破られた写真は綺麗に直してもらった。

破られたことなんてもうなかったかのように綺麗に直されている。

魔法とは凄いものだ、と改めて感じた。


その綺麗に直った写真が入った淡い碧色の写真立てを寝台の横にある小さな机の上から

そっと取り、膝の上にのせる。

そして、


「好きだよ」


その言葉を口にする。


君と居られた時間は、限りのあるものだったけれど

長かったんだ。とても・・・。

なのに

なのに僕は君に、この、たった二文字の言葉―『好き』―を伝えることが出来なかった。

時間なんて、いくらでもあったのに。


君のことが好きで好きで堪らなくて

愛してるという言葉だけでは足りない程に

君を心から想っているのを知っているのは

他でもない僕だけで

それを伝えることができるのも僕だけで

早く伝えないと君が消えちゃうかもしれないって分かっていて


でも

それでも


僕は君に伝えようとはしなかった。



怖かった。

もし僕がそう伝えたとして、

君との関係が崩れることになってしまうかもしれなかったことが。



「ほんと、僕って馬鹿だなぁ・・・」



失うって分かってたのに

分かっていて、それでも伝えなかったんだ。



後悔するって分かってたのに。

第弐拾伍章・「窓の向こうから」→←第弐拾参章・「悲しげな笑顔」



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あぉぞら - すいません!紅覇くんの消してしまいました…。短編集書いてるので、良ければそちらを…!すいません!玲琉.さんの作品、大好きなんでこれからも読ませて頂きます! (2015年6月22日 1時) (携帯から) (レス) id: 0a5444ed6a (このIDを非表示/違反報告)
玲琉.(プロフ) - あぉぞらさん» コメントありがとうございます!そう言ってもらえてすごく嬉しいし励みになります・・・! あぉぞらさんの小説は時間があれば是非読ませて頂きます・・・! (2015年6月9日 18時) (レス) id: 7d3c1dd707 (このIDを非表示/違反報告)
あぉぞら - 私、小説の一気読みはしないんですが、この小説は面白すぎて一気読みしました!私も紅覇くんの小説かいてるので、良かったら見て下さい! (2015年6月9日 1時) (携帯から) (レス) id: 0a5444ed6a (このIDを非表示/違反報告)
もちづき。(プロフ) - 玲琉.さん» ひえええぇありがとう・・・!!発想力というか妄想りょ((ゲフンゲフン。うん!ちょっと息抜きとかに読ませてもらうね! (2014年12月29日 14時) (レス) id: 8ea19f9ae6 (このIDを非表示/違反報告)
玲琉.(プロフ) - もちづき。さん» 来てくれて有難うー!!!!つきちゃんは文才あると思うよ^^っていうか恋愛のシチュエーションとかの発想力がすごいと思う!この小説はマギ知らなくてもわかる内容だと思うよ・・・!多分・・・!良ければ全部読んでやってね()綺麗な文章とか何それ嬉しすぎ>< (2014年12月29日 14時) (レス) id: 754b0bfd10 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:玲琉. | 作成日時:2014年4月4日 18時

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