【歌い手】御主人様。【そらる】 (ページ17)

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「はぁ…」

部屋に戻り、後ろ手で扉を閉めると深いため息をついた。

泉さんに呼ばれて、まさかこんな事になるとは…

…お陰で、思い出したくも無い事まで記憶の底から呼び戻してしまった。

食欲なんてのも、失せてしまった。

「…このまま、寝ていようかしら」

たしか溜まっていた有休があった気がするので、自分の携帯で夏帆さんに一本電話を入れる。

『ﾌﾟﾙﾙﾙﾙrｯはい、鈴ちゃん？どうしたの？』

「あ、夏帆さん…今日、午後からの仕事休ませて貰ってもいいですか…？」

私の声のトーンの暗さに何かを察したのだろう、快く了承してくれた。

「急に言ってごめんなさい、ありがとうございます」

『良いのよ、たまには休みなさい。それじゃあね』

そこでぷつりと電話が切れた。

私はいけないとは分かっていたけれど、メイド服のままベッドに倒れこんだ。

そして目を閉じて、過去の記憶を手繰った。

「そらるー、ここどうなってるの…？」

「え、また寝てたの…？俺説明下手だから、ノート見て理解して」

その言葉と共に、頭にぺし、とノートが置かれた。

ありがと、と微笑んでありがたくノートを見せてもらった。ついでに書けていない所を写させてもらう。

高校一年生の夏。私と御主人様が、16歳の頃。

その時はまだ、主従関係は無くて。

でもその代わりに、私達には「幼馴染み」という肩書きと、御主人様には「そらる」という名前があった。

御主人様は昔から変わらず今の屋敷に住んでいて、私の家は彼のはす向かいにあった。

平凡な家だった。貧しくも、豊かでもない、だから不自由は無かった。

普通に友達と遊んで、服を買って、アルバイト行って、なんて。

普通の女子高校生の生活を送っていた。

唯一違うのは、容姿端麗で頭の良い、ついでにお金持ちの幼馴染みがいる事だけだった。

もう一人、私と御主人様には幼馴染みがいる。

それが彼女、ろんだった。

今は引っ越して別の市に引っ越してしまったけれど、私達が大学生になる位まではずっと一緒だった。

私達は大抵、いつもこの三人でつるんでいた。

“あの日までは”。