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「え…」
絶句した。
嘘を言って、面白がっている表情ではない。
そもそも、泉さんがそんな人じゃ無いのは分かっているのだから。
つうっと、嫌な汗が背中を伝った。
「身分違いだとは分かっていましたけれど。それでも、あの優しい表情を向けられる度に鼓動が早まるんです。─────鈴さん。…貴方も、そうなんでしょう？」
何も、答える事はできなかった。
そして、泉さんは悲しそうに目を伏せた。
「一昨日。綺麗なドレスを身に纏って、遥様ともう１人の女性と、楽しそうに談笑している貴方を見ました。…っ貴方は、この一ノ瀬家の従者ではなかったのですか…！？」
うっすらと彼女の目に張る涙の膜。
…彼女は、本気、なのだ。
従者としてでなく、１人の女性として。御主人様を好きなのだ。
眉を潜めたまま、目を閉じて震える息を吐いた。
そして真っ直ぐに彼女を、泉さんを見つめた。
「…貴方に聞かれて答えた、最初の自己紹介に語弊があったわね…。
芳野は旧姓。今の私は、
一ノ瀬鈴…とでも言うべきね」
今度は、彼女が目を丸くする番だった。
「私、訳ありでね。和博様に養子にしていただいたの。そのきっかけを作っていただいたのが御主人様。だから、私がこうして御主人様に仕えているのは恩返し…かしら」
困惑した様に口を開こうとする彼女に、微笑を向けた。
「あら、養子にしていただいた訳を聞こうと言うのならお門違いね。これから先はプライベートだもの、貴方に知る権利は無いわ」
怯えた様に肩を竦める彼女。少し強く言い過ぎたかしら。
「…まぁ、私の気持ちを御主人様に伝える気は無いわ。戸籍だけとはいえ、私の兄ですもの」
じゃあ失礼するわ、と椅子から立って彼女の部屋を出た。
部屋には、茫然とした表情で彼女が立っていた。
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作者名：月見だんご | 作成日時：2018年3月31日 23時
