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巨大な頭足類 ページ31

「オススメの本ってあるか?」


『…まずはこれ読んでみたら?』


「ちげえ、そういう事じゃあねえ」



花京院が少し席を外している隙に承太郎にラブレターの束を渡していると、ふとそんなことを聞かれる。本と言われても本人の趣味もあるので迂闊に勧められない。



『どうしたの藪から棒に、承太郎が望むような答えは出てこないと思うけど』


「センコーに人に勧められた本で読書感想文書けって言われてな」



どうやら授業としてそういうコンセプトのものがあるらしい。
承太郎ならどんな本でもそれなりの出来で仕上げるだろうから気楽に勧められるな。

そう考えた私は一旦ラブレターをしまい一冊の本を取り出した。



『じゃあこれとかどう?』


「これは…」



かれこれ十年以上の付き合いとなる分厚いその本、もとい海の生き物図鑑だ。
表紙を見せてから承太郎に渡す。奥が深いから一度ハマると病みつきだよ。

この図鑑は子供用のイルカやマグロが載っているような陳腐な代物じゃあない。
一つの生物に十数ページもかけてじっくりと解説してあるガチめな図鑑。


彼自体知識欲はある方なので海洋生物と相性がいいのではと密かに思っている。



『そう怪訝な顔しないでよ、食わず嫌いは損だって』



これを機に承太郎をこっちの道に誘えないか。

見透かされているであろう下心を隠して本を差し出すと、幼児に絵本の読み聞かせをせがまれた保育士のように渋々という形で図鑑を受け取った。


手に取って一ページずつめくる動作をチャンスと言わんばかりに期待のまなざしで見つめる。



「ほう…オイ、A」


『はい!』



年代物の本なので汚れが目立ってないかなど不安が頭をよぎるが出だしは好調のようだ。
緊張から体が強張るも承太郎の興味をひくためにと返事に力が入った。



「ダイオウグソクムシは英名でなんて言うんだ?」


『えっと、表記ゆれがあるけどジャイアントアイソウポドかな』


「そうか」



恐る恐るそう答えると承太郎が本を閉じる。

何かまずかったか、息が詰まる思いで次に紡がれる言葉を待つ。
すると承太郎が滅多に見ないようなささやかな笑みで告げた。



「この本、暫く借りてくぜ」


『ホント⁉』



分かりやすく喜びの感情を露わにする。
だが最後に付け足された一言に苦笑いを零すしかなかった。



「ただ、俺がこれを返す前に英名の発音を完璧にしとくんだな」


『…アハハ』



英語が苦手な私にそれは酷な条件である。

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酸性雨の1つ(プロフ) - 蛸山葵さん» いえいえ、、貴方こそが神なのです。崇め讃えます。 (2月3日 21時) (レス) id: f35602649d (このIDを非表示/違反報告)
蛸山葵(プロフ) - 酸性雨の1つさん» まさか私の知らぬ間に降臨していたとは……。神の名に恥じぬよう頑張りたいと思います! (2月3日 21時) (レス) id: eddcdf4797 (このIDを非表示/違反報告)
酸性雨の1つ(プロフ) - 、、、神が此処にいますね存在してますね (2月3日 11時) (レス) @page50 id: f35602649d (このIDを非表示/違反報告)
蛸山葵(プロフ) - 憂さん» 「続きが見たい」と言ってくれてとても嬉しいです!申し訳ありませんが変にダラダラと続けるよりは今区切っておきたいと思いまして…。まだ拙い文ですが読んでくださりありがとうございました。 (11月7日 21時) (レス) id: eddcdf4797 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - お、、終わっちゃうんですか!! できることなら続きが見たいです 間違いであってくれぇ〜 (11月7日 0時) (レス) @page50 id: fbaa8ffb84 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蛸山葵 | 作成日時:2023年8月28日 23時

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