参百廿弐 ページ49
広津が帰し、再び二人となった美術館。何と無く動く気がせず、徐に夏也の髪を撫でているとか細い声が届いてきた。
「……どうしたって治が不利だ」
「分かっているさ。極限でも指し続けなければならない状況にはなるだろうね。……でも何故今私に?」
「そう、だね。けど太宰。これだけは覚えておいて」
「ん?」
太宰の膝から起き上がり、嘗てガーゼに覆われていた左頬に手を滑らす。久方振りに彼の端正な顔を正面から見据え、鳶色と黒を交わらせた。
いつも通り、何方かの背が少しでも押されれば唇が触れそうな距離。近距離にも関わらずしっかり視線を絡め取ると夏也は場違いな嬌笑を見せ、宣言するようにハッキリ云った。
「俺はこの先お前の手札には、なれない。……尤も、不要だと思うけど」
「なつ、や?」
「さて、戻りなよ、探偵社にさ。今から行けばまだ間に合うんじゃない?」
「待ち給え。君には何が見えてる」
「……何も。けど、分かる。あれの手元に居た、過去の俺がずっと警鐘を鳴らしてる。――いつか後悔するって」
「……後悔? 何に対する?」
「分からない。でも確かに“俺”はそう云ってる。殺さなかった事を後悔する、と。そして万策尽きた時、俺は壊れる」
それだけは確かなんだ、と囁きに混ぜた。自分の事だが他人事。いつもの事だが、そうでない空気を太宰は感じ取る。
「そんな事させないっ……。私が許す訳ないだろ!」
「知ってるよ。けど、お前が手を伸べるべきは俺じゃあないだろ。それを違えるな」
「けど!」
「美術館で大声を出すなっての。先刻の発言の手前、些か信用性には欠けるけど、さ。俺は大丈夫だよ。それとも? 真逆俺が誰かに守られる程弱いって云いたいのか?」
後半につれ、殺気が醸し出される。ひんやりとした言葉は肯定などさせない云い方であった。夏也とて相応の持つべき矜持は持っている。それを知っている太宰はそれ以上彼を抑止する言葉を繋ぐのを止めた。
夏也――平賀 Aの強さはよく知っている。それが一番発揮させる場面も。
だからこの宣言は“そういう事”なのだろう。もし例え何があってもこの先彼は敵でも味方でもない。けれど、排す必要のない
「大丈夫だって。万策が尽きる事はそう無いし、俺とて異能力者だ。奥の手くらい用意出来る」
太宰が思考に耽る傍らで夏也は快活に笑い、彼の眉間の皺に軽く口付けた。
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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時