弐百漆拾陸 ページ2
メルヴィルの言葉は可能性の示唆ではなく、予言にも似たものだ。夏也と太宰が事前に想定し各々回避の為の策を弄して。けれど誰にも告げなかった、白鯨の墜落。
中島が薄々勘付き、けれどそんな訳ない、と否定し続けた可能性。それをいとも簡単に肯定された。否、メルヴィル自身に中島の勘を肯定する気は無かったのだけど。
驚きで固まる中島を余所にメルヴィルは淡々と言葉を重ね、「詛いの異能で傷付いた街は完全破壊される」と締め括った。補足の様に落下地点も付け加えて。
「落下地点に探偵社とマフィアの拠点も含まれる……!?」
組合の敵が灰になる、それ即ち探偵社とマフィアが消される事と同義だ。自分が過ごした街を焼かれ、漸く見付けた居場所を消される。
「既に降下は開始している。一時間足らずで地上に激突する」
「この白鯨が貴方の異能なら! 貴方なら落下を止められる筈です!」
中島は叫ぶ。異能ならば、管制を奪わずとも此処で彼を“説得”すればことは済む。一縷の希望のようにみえたそれは、メルヴィルが緩く首を振ったことで不可だと悟らざるを得なかった。
「確かにこの白鯨は儂の異能……。じゃが今は内部の七割を兵器置換され、もはや儂に操作能力はない」
「聞きましたか太宰さん! 直ぐ作戦を中止して避難しないと……」
能力者による停止や浮上が無理なら、事実を周知して被害を抑えるしかない。いや、或いは太宰ならば何か起死回生の策を披露してくれるかもしれない――そう思い、中島は太宰への通信を繋ぐ。
……が、太宰の頭は違う答えを導き出していたらしい。
『……敦君、よく聞くんだ。作戦に変更はない。君の手で白鯨の制御を奪取し、落下を阻止するんだ。それができるのは今白鯨にいる君しかいない』
「太宰さん……。この事態を予測していたんですね?」
余りに冷静すぎる先輩の声。太宰の声は揺るぐことのない、平坦な声だった。
『可能性の一つとしてね。それも含めて君を適任者と判断した。――やれるかい?』
中島は考え……そして太宰に無言の肯定を返し、メルヴィルを見据える。その表情は既に覚悟を決めたものだった。
「落下を止めるには……どうすればいいんでしか」
「制御端末を使うしかない。左に進んで吹き抜けの先じゃ。無論、警備は厳しいがな」
あっさりとした回答に若干拍子抜けしつつも、中島は踵を返そうとし――もう一度だけ口を開いた。
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みゃあ(プロフ) - 狐猫音。さん» 度々のコメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂けたのなら作者冥利に尽きます。お言葉の一つ一つが物凄く嬉しいです。読んで頂き、ありがとうございます。 (2018年12月26日 14時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
狐猫音。(プロフ) - 限定公開……!クリスマスは楽しいですね。番外編という最高のクリスマスプレゼントをありがとうございます。とても楽しんで読むことができました。これからも更新頑張ってください。 (2018年12月26日 12時) (レス) id: 1402817ddd (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - myuさん» 有り難いお言葉です……!展開に自信なかったので少し安心しました!更新頑張ります。 (2018年11月4日 11時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
myu - とっても面白い作品です。更新頑張ってください (2018年11月3日 16時) (レス) id: fe06e07095 (このIDを非表示/違反報告)
みゃあ(プロフ) - ЯRさん» コメントありがとございます!そう言って頂けてとても嬉しいです。ありがとうございます! (2018年8月8日 15時) (レス) id: 9721615f06 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:みゃあ | 作成日時:2018年4月30日 21時