誰にも望まれなかった者たちへ【文スト】

人の命は儚いもので ページ18

ヨコハマには、「皆殺しの田中」と呼ばれる男がいる。
彼は決して、残忍な性格をしている訳でも、殺戮の異能を持つわけでもない。


「……田中芳樹、通称『皆殺しの田中』、作戦立案において右に出る者はいないが、その作戦が殺人に関連するしないに問わず、必ず関わった人物が一人は死ぬ……か」


「いやあね、僕は単に最善の手を選んでるだけですよ。その中で偶々死ぬだけで……意図的に死なせたことも無いわけじゃないですけども……」


現在、田中は武装探偵社の面接試験中だ。
探偵社に入社したいとやって来た彼は、入社試験で見事人質を救出し合格した。そして、その際犯人役の探偵社社員の投げたナイフを避けた後、ナイフが窓から外に落ち、通行人に刺さって死なせてしまった。


「僕には『才能を発揮して、やりたい仕事をやる』っていう、世間一般の云う幸せは望めない人間なんでしょうね」


溜息を吐く田中に、社長である福沢は何も言えなかった。
彼の望む生き方をさせれば、必ず誰かが不幸になる。かと言って、彼に作戦参謀以外の仕事が務まる気はしない。

ふと、あるアイデアが浮かんだ。


「……小説家になるのはどうだ？」


「昔やってました。異能を使えば破綻のない完璧なシナリオが書けるので、僕としても好きでやってたんですよ」


田中はまた溜息を吐いた。


「そしたら、新刊が出る度に人が死んだ」


「は？」


「あのシリーズを完結させていないのに新作を書いたことに怒ったファンが編集者を殺したり、僕が作中で誰かを殺したらそのキャラのファンが首吊ったり……」


「……分かった、お前に向いている仕事は……事務員だ。書類仕事だけやらせよう」


「やったー！ありがとうございます！いやあ、僕の周辺で人が死にまくるので、どこも雇ってくれなくて困ってたんですよ！ありがとうございます！」


これで誰も死なせない、矢張り異能で探偵社に入社すべしと判明して良かった、と思った田中。
明日、また誰かが彼のせいで死ぬとは夢にも思っていなかった。

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