依存症状《Undertale AU》【短編集】

■貴方の為に何だって【Fell Sans】 ページ6

貴方は、「マゾヒズム」というものをご存知だろうか。

所謂「異常性癖」とされるもので、相手に精神的・肉体的苦痛を与えられることに快感を抱く……とか。

私には理解できない。誰かに傷つけられることは、私にとっては苦痛でしかない。それが快感になることはあり得ない。

でも、そういう人もいるのだ。実際、私の身近にも。


私の彼氏はスケルトンだ。人相が悪くて、笑顔も怖い。しょっちゅう子供に泣かれているが、本当は結構優しいし、弟が大好きだし、抜けているところもある。

そんな彼に心惹かれて、交際を申し込んだ。

断られることは覚悟していた。しかし、意外にも彼の返事は「Yes」。

それから毎日会って、同棲なんか始めたりして。

幸せだった。生きてきて良かった、彼に出会えて良かったと、今までの頑張りや努力が報われたように思えた。

……でも、それはきっと私だけ。


私の彼氏はマゾヒストだ。彼にとって、痛みは極上の快感となる。

だから、彼を傷つけたくない私では満足できなかったのだろう。

同棲を始めてから、もう1年になる。一度もそういう行為に及んでいないことは気にしていない。彼が好きだから。

最近、ずっと外出していて、部屋の中でもスマホばかりいじっているのも気にしていない。彼が好きだから、大好きだから。


彼を傷つけられない私が悪かったの。彼を満足させられない私がいけなかったの。だから、浮気されちゃったって、仕方ない。我慢しなくちゃ。彼が、私を捨てずにいてくれることが奇跡なだけ。文句なんて言ったら、きっとすぐに切り離される。
それは嫌。こんなに好きだから。浮気されたってDVされたって、彼を嫌いにはなれない。彼に捨てられたくない。


私は至って普通の人間だった。彼の変わった趣味を完全に理解はしてあげられないし、いくら好きだからって彼を傷つけたくなんてない。

でも、捨てられることは嫌だった。誰より私を選んでほしかったし、結局最後は私の元へ帰ってきてくれると信じてた。


多分、私は彼と出会って変わってしまった。彼と離れることは何より苦しい。彼の側に居られるなら、私自身を作り替えることだって厭わない。

彼に愛してもらえるなら、何だってしてやる。


私の彼氏はマゾヒストだ。そんな彼に愛されたくて、今日も私は、嫌いな赤に染まっていく。



＊貴方の為に何だって。俺の為に自分すら削ってしまう、可愛そうな君が好き。

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