獄都商人 (ページ17)

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じゅうななページ17

ポーチと包帯を引っ掴んでできる限りの力で上に飛び上がる。一回転して建物の屋根に降りると、先程まで私がいたところには大きな爪痕が出来ていた。
痕をつけたのは、大きな蟹だった。
…「のような魑魅魍魎」などではない。そのまんま、蟹だった。そういえば、そろそろ夕飯時だ。お腹が減った。
…まあとにかく、力は強いようだが、動きは遅い。簡単に追いつける。弱らせておくくらいは出来るはずだ。

ぱっと周りを見回す。この神社の主の妨害行為が役に立っているようだ。他に魑魅魍魎は見られない。数がいたなら、私には相手出来ない。繰り返す。私は弱いのだ！

巨大蟹は、さらりと私を無視して亡者の方へ行こうとする。好都合だ。懐から小刀を取り出して構え、巨大蟹の上に飛び降りる。旅先で超金持ちのお得意様に貰った最高級の小刀だ。ぐしゃりと音を立てて甲羅を突き破った。黒っぽい甲羅を蹴って後ろに飛びずさり、石畳に着地。金栗四三という陸上選手が使ったのが起源だというゴム底の地下足袋がずずずっと音を立てる。最近お気に入りなので破けないで欲しい。

巨大蟹は、ぎこちない動きで目をこちらに向けた。亡者の悲鳴を振り払い、私は地面を蹴って跳ぶ。私の蹴る力では先程のような殻を破る打撃は望めない。地道に傷を抉り続けるしかない。

勢いよく振られた鋏を避け、闇雲に小刀を振る。運良く切っ先が目を掠めた。亡者の嘆きと蟹の咆哮が重なる。

そのまま、蟹が鋏を振り下ろした。避けきれない。どうにか右手で受け止めながら後ろに下がる。骨が折れる嫌な音が溢れ出る血の赤さと痛みとともに脳に衝撃を与える。傷が熱い。また悲鳴が響く。頭が痛い。ぱたぱたと血が玉砂利に当たる音がする。

また、蟹が大きく鋏を振り上げた。傷が痛むのか、動きが鈍い。振り下ろされる前に、私はできる限り高く跳んだ。そのまま、踵を甲羅に打ち当てるように着地。足にかなりの衝撃が来るが、無視して小刀を大きく振るった。

きゃああああああという亡者の断末魔と共に、私は蟹の両目を切り落とした。