17−約束 ページ17
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目を合わせようとしない彼を少し怪訝に思う。
沈黙の数秒を気まずく待っていると、彼は変わらぬ表情で私を見据えた。
「…明後日」
「……うん?」
「_俺の……誕生日、なんだ」
「…ええっ! そうなの!」
それは大変! お祝いのプレゼントを用意しなくちゃ…。
…待って。どうしてそんなに、悲しそうなの?
彼は「…だから」と続ける。
「絶対、会いに来い。…その日だけは、お前に会いてェ」
「勿論…必ず行く! 朝一番に!」
「…っ約束だぞ」
「ええ、約束」
噛み締める様に実弥は唸り声を上げて私に頭を垂れた。
自然とそれに手を差し伸ばして柔らかく撫でてみると、満足したように離れていく体。
そして踵を返し、オオカミさんは静かな森へと消えていった。
姿が見えなくなるまでずっと見送った。
_オオカミさんも、途中何度も振り返った_。
「A! 仕事が終わってないじゃない! 昨日は何してたわけ!?」
「すみません姉様。眠ってしまって」
「私のドレスよりアンタの睡眠の方が大事ってこと?」
「いいえ、そういう訳では…」
「おだまり、A。仕事を怠ける使用人がどこにいるの」
「…奥様…」
家畜に餌をやってから家に入ると、案の定姉様は起きていて火を起こしていない暖炉の前で仁王立ちしていた。
そして隣には愛猫を愛でる奥様が足を組んで座っている。
突っ立つ私を舐め上げて目を細めた。
「髪に朝露がついてるわよ」
「…あ、これは…森に行っていて、」
「出たわ! またお得意の森のお友達とやらと話してたの?」
「動物とおしゃべりなんてどうかしてる!」
「アハハ! 頭のねじが外れてるのよ!」
「さっさと朝食の準備をしてくれる? 暖炉もね」
「はい、ただいま」
昨晩の幸せはどこへやら。
我がもの顔でこの屋敷にふんぞる彼女達にこき使われる。
私は使用人なんかじゃないわ。
少なくとも、貴方達のこき使いじゃない。
そう言ってやりたいのを我慢して誰も居ない台所へ向かった。
「_すみません、おまたせしました」
「ちょっと。エッグが生焼けよ」
「私のスープにはアーモンドを落とさないでって言ったじゃない」
「ごめんなさい、急いだから」
「使用人として基本も出来ないなんて本当出来損ないよね」
「…っ」
パリン、
地面に落とされたスープの皿が、虚しく割れた。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時