泳いで溺れて ページ33
「やばいやばい、眠過ぎて仕事が手につかない。」
「大丈夫ですか？」
「大丈夫だと思うけど。」
夕方過ぎの診察室では“総合医(産科が得意) 鬼嶋A”と、ペンで書き足されたふざけたネームプレートを下げたAがおニューのスクラブで診察の準備をする姿があった。
「昨日お酒飲まれたんですか？」
「うん、そうなんだよ。ハイボール十杯くらいと
ウーロンハイ三杯くらいかな。」
ニュッと三本の指を立てたAに新米看護師はギョッとした顔を向ける。
Aからしたら大してすごいことでもない。
「え゛...眠気だけで済んでるって...すごいですね。」
「まぁ元々そんなに酔わないからね。
先生もかなり飲んでたよ。」
「あ、院長と行かれたんですか？」
「そうそう、意外と酒豪なのよ。
私たち“独身貴族”。」
「ど...独身貴族ですか...」
「そそ。良い呼び名でしょ？
昔から
この新米看護師は若いながらも結婚していて、当直じゃない限り、夫の待っている家に直帰できるのだからAからしたら既婚下民みたいなものだろうか。
「次の妊婦さんは...」
「妊娠３５週、DDのお母さんです。」
「DDかぁ」
DDとは双生児(双子)の妊娠時の状態のことを言う言葉である。
二人いる胎児に対して、
“赤ちゃんを隔てる羊膜がそれぞれ一つずつ、胎盤も一つずつ付いている”状態をDD双胎という。
そして、“羊膜が一つずつ、胎盤は一つを二人で共有している”状態はMD双胎という。
そして“羊膜も胎盤も一つを二人で共有している”状態をMM双胎という。
どれも通常の一人を妊娠する場合よりはリスクは高く、切迫早産の確率も二倍、胎児の
そして何より大変なのが、双胎の種類によってリスクが違ったりするのだ。
DD双胎の場合はそれぞれ一つずつ別々になっているため一番リスクは低いと言える。
しかし、一般的な双胎のリスクに加え、妊娠高血圧や妊娠糖尿病などのリスクがある。
「一卵性なんですかね？二卵性なんですかね？」
「DDは必ず二卵性だよ。細胞分裂云々の前に二つの受精卵からできるからね。」
幸いこのお母さんは健康管理がうまく、血圧異常も、血糖値の異常も見当たらないため、経過観察で済みそうだ。本島には明日あたり＿＿
「鬼嶋先生！！！！
DDの早見さんが...待合室にて破水しました！！！」
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作者名：長官 | 作成日時：2020年5月3日 17時
