いい話風 ページ32
「恐怖って...いい話かと思ったじゃないか」
「ただの思い出話なんですけどね〜
私、いい話風に話すの得意なんですよ〜
まぁでも確実に先生は私の人生変えてますよ。」
「重いなぁ...立場が...」
「ハハッ!
恋人もいないのに恋愛相談される私の立場よりはマシですって。」
また私の言葉にシン、とする。
夏の暑い日にこんな話ばかりしていたら氷点下まで気温が落ちてしまいそうだ。
「お前結婚しないのか。」
「そういうのセクハラになるんですよ今の時代。」
「あ。...そうか、悪いな」
「いやいやいや冗談で言っただけですから。
まぁ〜恋人作る気もないし、今は島民のみんな幸せにして、医療に専念して。って感じですよね。
いつもの癖でライターを取り出そうとしたが、さすがに人前でパカパカと吸える非常識な女ではないので、黙ってライターをしまう。
「子供だって産める気がしないです。」
「そうか?」
「親になれるようなタイプじゃないですよ私、
だって“親を知らないんですもん”」
___________
鬼嶋が静かに口にした言葉が頭に残ってどこにも行きそうになかった。
「...はぁ。確かにでも危機感はありますよね。
だって、三十過ぎて、恋人のこの字もなければ、他人の幸せ願って日々努力して。
いいことだろうけどいい加減やばいですよ、もう本当。女の旬なんてどこぞの糞爺が言いやがったせいかしら。」
彼女は酔っ払うと静かになるタイプだ。
普段からこんなに喋るタイプではないし、酒が数杯
入ったところで何も変わらない。
なのになぜか今は何かを隠すようによく喋る。
「まぁ...独身貴族って響きはいいもんですよね。
実態えぐいぐらい寂しいですけど。」
「独身貴族かぁ。
俺も今度からそう名乗ろう。」
「え…先生独身なんですか...」
「え、今?」
「てっきりもう済んでるかと思いましたよ。
すいませんね。私なんかまだ若いのにベラベラと...」
「その気遣いが失礼っていうんだよ、」
ニヒヒ、と笑う鬼嶋が何を考えているかなんて全く分からないけれど、とりあえずお気楽そうなのはよくわかった。
「じゃあいっそのこと私と結婚しちゃいます?」
「...面倒臭そうだな...」
「あ、でも今一瞬考えました?」
「考えてない考えてない」
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時