心做しか ページ22
翌日は心なしか空気が気持ち良く感じた。
よく泣き、弱音を吐き、強がりを言い、全部ぶちまけたからだろう。
先週とりあえず契約したウィークリーマンションの1階からぼーっと外を見る。
備え付けの物以外何にもない部屋だし、これから物が増えるわけでもない。
強いて言うなら壁は白く、フローリングが綺麗で風呂トイレが別と言うところが取り柄だろうか。
アパートは大家と話し合って解約した。
荷物の撤去は時間をかけてもいいと言われたのでじっくり時間をかけて、その上嫌がらせの如くススだらけの部屋の掃除はしないで出て行ってやろうと思っている。
「...あ。もしもし?」
ベランダで吸っていたタバコをサンダルで潰し、携帯を耳に当てた。
着信は姉からで、本島からの電話だった。
『もしもし、あなたの姉です。』
「うん、わかってる、どうした?」
電話の向こうでは私より幾分か高い声のする元気な姉の声がしてホッと一息つく。
医者の旦那と東京にいる産科医の姉は、島に帰った私にちょくちょく連絡をくれていた。
『やっと妊娠しました。島帰り出産します。』
「マジ?!おめでとう!何週?」
年の差もあって、不妊に悩んでいた姉夫婦は随分と早い段階から妊活をしていたが、やっと努力が芽吹いた様だった。
『36週』
「は?!早く帰って来いよ?!」
『だから今船の中。』
「こっち連絡来てないけど?」
『荻島先生には言ってあるよ?』
「え?聞いてないし…迎えに行く。」
猛暑日。
アイスバーを咥えて横断歩道を渡る子供たちは夏休みだろうか。
天気は普通。まぁまぁよりかはちょっと上。
徒歩だとまぁまぁ時間がかかる道のりを冷房の効いた車で悠々と走る。
十分程で着いた船着場にはまぁまぁデカい船が止まっていて、駐車場でうとうとしながら姉夫婦がここまでくるのを待った。
しかし駐車場に到着した姉の横には旦那の姿はなかった。
「旦那は?」
「来週くらいに来るって言ってたけど」
「一緒に来いよ...」
助手席に姉を乗せて、大きな紙袋に入った入院用の荷物を後部座席に置くと、運転席に座って車を走らせ始める。
「なんか流してよ。」
「この車なんもないよ。ボロだもん。」
「あんじゃん。」
「それ灰皿だよ」
島に来てから知り合いだったおじさんに破格で譲ってもらったボロい軽自動車。
シートも何もかも厚意で張り替えてくれたらしい。
「あんたこの島の方が生き生きしてんね。」
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時