生きてくれ頼むから ページ19
「変わります。」
縫合が終わり、子宮の収縮も見られたために、出血も少なく済んで、蘇生術に専念できる。
「あと十秒で除細動入ります!」
急いで手袋を外し、トレーに投げつけると、AEDをギュッと握る。
...もう少しで五分が経とうとしていている。
もう胎児はいない。大動脈を圧迫するものもない。
だから...心臓が動いてくれるのを待つだけ。
何回目かの除細動。
これで頼む。これで頼む。動いてくれ心臓!
と固唾を飲んで装置を握りしめた。
「離れてください!」
ドックン、と再度母体の体は大きく揺れ、心電図も一瞬だけ盛り返す。
全員がドキドキと鼓動を鳴らして心電図を見守る...
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「動け...動け...動け。」
「来い!...来い!」
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《ピッ...ピッ...》
「「きたあああ!」」
心電図は脈を打ちはじめ、蘇生に成功した事を知らせてくれた。
それと同時にAの死戦期帝王切開術が成功したことも合図する。
Aは肩を大きく揺らしながらふらついた足取りで術着を脱ぐと大きく拳を握って振り下ろした。
それから三十秒ほどでヘリコプターを見送って、怒濤のコードブルー宣言は収束を迎えた。
「鬼嶋大丈夫か、」
しかし、医局に戻ろうとするAは酷くフラついていて、やがて隣に居た荻島に思い切り倒れ込んだ。
「鬼嶋?!」
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「鬼嶋大丈夫か?」
「...え?...あれ...?」
「起きなくていい、いま叶が点滴持ってくる。」
「いや...」
鬼嶋はむくりと起き上がろうとする。
それを制止すると、我に帰ったようにバッとフードを被った。
視線は泳いでいて、酷く汗ばんでいる。
やはり右耳のことを気にしているのだろうか。
ここに運ぶ最中も見えるわけでもなかったし、特に何も感じなかったが。
「息苦しさはあるか?」
「な...ないです...た、多分」
「よかった。汗拭け、」
「あ、す...すいません...」
暫くすれば、叶が点滴を持って現れた。
鬼嶋は酷く眠そうに目を擦る。
「死戦期帝王切開は経験したことあったのか?」
「死産なら一回...
母体を守るためだったんですけどね......」
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ひやっとおでこに当たった手が冷たくて気持ちが良くて、朦朧とする意識の中、ゆっくりと目を閉じた。
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作者名:長官 | 作成日時:2020年5月3日 17時