episode346 ページ6
＿＿“ああ、そうだ！皆さんに言っておくことがありました。我々ロシア代表に、オリオンの使徒はひとりもいません”
＿＿“我々ロシア代表は、オリオンを認めない！”
各々が疑いの眼差しを向けていた私達の前で、フロイ・ギリカナンはまるで舞台役者のように凛とした声で、そう宣誓した。
表立って宣戦布告されなかったことが、まったくの想定外だった訳じゃない。
ただそれを、オリオン財団を牛耳るギリカナン一族のひとりが口にしたということが大きい。
その宣誓に、私達は余計に掻き乱されることになっていた。
オリオン財団は、賛同されないようなやり方をしている、と。向こうから、そう認めただけじゃない。
オリオン財団には警戒してくれ、とも取らせようとしているようにも感じた。
(言われなくても、嫌というほど警戒しているけれど)
「そろそろ、バスが出るよ」
私が張り巡らせた思案の中を、いつもこいつは遠慮もなく、ゆっくりとくぐってくる。
決して、糸を切らない程に。
でも、その糸を震わせて、私を静かに呼ぶように。
「ほら、早くおいで。一星君、A」
悠馬の声に、もうそんな時間か、と、改めて辺りを見回し直す。
パフォーマンスが終わってからも、ホスト国のプレイヤーとしてバスに乗り込むアメリカ代表やスペイン代表を見送るフロイ・ギリカナン。
でも、あまり集中は出来ていないみたい。
だって先程からずっと、どこに目をやっても最後には引き戻されるように、私の隣にいる光くんの元へ帰ってきてしまっている。
光くんも、向こうを気にしている、けれど。
フロイ・ギリカナンに向けたくないはずの疑惑、それでも向けなくてはどうしようもない疑惑を抱えているせいで、視線が合うだけでも苦しそうだ。
(どうせ私も話がしたかったし……それに、わざわざ会う約束を別で取り付けたら、相手に警戒されないとも限らない)
「ごめん。私と光くんは少し遅れるって、皆に伝えておいてくれるかな」
「へぇ、もう彼に会いに行くんだ。本当に迷いがないね、A」
早いに越したことはない。
とにかく、本戦が始まる前に少しでも情報が欲しい。
「Aはこう言ってるけど、一星君は大丈夫かな」
「はい。大丈夫です」
大丈夫、と言ったのは、悠馬に向けて。
そして、私にも向けていたのだと思う。
成果を得る為とはいえ、少し急かしてしまったみたいだけれど、光くんはその問いかけに対して強く頷いた。
「Aちゃんのことは、俺が絶対守ります」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
