episode243 Side Y ページ1
「A」
時計の短針は、既に真上を過ぎていた。
夜中には鍵の閉まる食堂。Aは何でもない顔で、いつの間にかくすねてきた鍵をくるくると指先で回しながら、遅れた僕を不満げな眼差しで掠めていく。
「夜中に会いに来て、なんて、君にしては大胆なんじゃない？」
後ろ手に鍵を閉めて、ぼんやりと灯るテーブルランプの元へと歩を進める。
外からは光が見えない角度。いかにもといったように徹底された“隠し事”。
悪いことをするというのは、ちょっとだけ好き。
それが君との企みなら、尚更のこと。
「僕は平気だけど、Aは大丈夫？明日＿＿というより、もう今日か。試合だよ」
「バスで寝るから、いい。あと、勘違いしないで。私は“報告したいことがあるから出てきて”、としか言ってない。西蔭さんのこと、起こしていないだろうね」
ガラスのコップに水を注ぐ僕の背後に、Aはいつの間にかするりと影のように忍び寄っていた。
テーブルランプの光から少し離れて僕達は、先の1歩を躊躇うような薄暗がりの中。Aの双眸は一層、神秘的な輝きを宿す。
僕の目の前へ、視線の刃先を突き付けるように。
「それはもちろん。部屋を出るまで、ひやひやしっぱなしだったよ。少しでも物音を立てたら、すぐ起きちゃいそうだから」
「だったら、いいけれど」
「……西蔭には、言わなくていいの」
らしくもなく口篭るAは、くしゃくしゃと髪を荒っぽく掻き梳いて、まるで苦し紛れの言い訳にでも逃れるように、優しい言葉を吐く。
「西蔭さんには、心配事が少しでも片付いたあとで言いたい。後ろめたく思っているんだよ、私が。それだけ」
自分が勝手に、そう思っているから。
そう言って僕達のもうひとりの仲間を、仲間外れにしないような言葉で、代わりに自らを悪者らしくしてみせたりする。
「これでも、結構な賭けに出たつもりだから。わざわざ試合前に、要らない不安をさせたくなくて」
「結構な賭け、か。……でも、僕には教えてくれるんだ？」
元々賭け引きにも臆しないし、人知れず裏で動くことにも抵抗のない子だ。それはよく知ってる。
それでも、彼女がわざわざ西蔭に話すのをよく思わないという現状。
どれだけの賭けに出たんだろう、と、胸騒ぎ。
そんな僕の内心を覗いてでもいるのか、Aはいつになく真剣な表情で、涙を一粒だけ落とすような声で呟いていた。
「一星充くんに、話してきたんだ。兄のことや、“アテナの羅針盤”のこと」
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
