episode203 ページ10
病室に備え付けの冷蔵庫があるか分からないから、冷蔵しなくても日持ちするお菓子だったり。
静かな病室でも退屈しないように小説を、それも軽く読みやすいように、短編集を選んでみたり。
「すごい、こんなにいっぱい」
「真っ白な病室にひとりは寂しいから。少しでも、この部屋に色を差せたらと思って」
やっぱり、お見舞いだとしてもちょっと多すぎたな、と改めて反省。
私も昔、入院していたことがある。
その時にあの甘やかしの先輩が、こうして花だったり、お菓子だったりを持って会いに来てくれるのがちょっとだけ、楽しみだったから。
「…わぁ、綺麗……！これって、何のお花ですか？」
「ブルースター。一星光くんのことはよく知らなかったから、蒼い星みたいな君のお兄さんを思い浮かべて選んだんだけれど」
中でも一星光くんが喜んでくれたのは、プリザーブドフラワーのドーム。
ガラスの中に時間ごと閉じ込められたのは、彼とお揃いの、蒼色の花。
眩しいくらい、きらきらとした目で見つめてくれるもので。
その瞳の中に、花の蒼色が溶け込んで、万華鏡のように咲き映った。
「……どうやら、これで正解だったみたいだ」
あまりにも曖昧で覇気のない呟きに、花の咲いた目がきょとんと丸くなったのがすぐに分かる。
「……花綺更さん？」
「ううん。ごめんね、何でもないよ」
言いようのないこの不安を、相手に伝播させてはいけない。
「君は、ずっとここに？」
ベッドの横のスツールに腰掛けて、再び先程と同じように冷静に、かつ態とらしくもある、人当たりの良さそうな笑みを浮かべてみた。
こういうところは、気に食わないけれど、結構悠馬に似ているんだと思う。
「兄ちゃ……兄と一緒に、ロシアから日本に移って来ました。5年前に交通事故に遭った時の後遺症で、意識がない時間が長いんです。その事故で父を亡くして、俺もこんな状態だから、兄にはすごく大変な思いをさせてしまって」
「一星充くんは、よく会いに来てくれるの？」
「練習の合間を縫って来てくれます。でも」
“＿＿日本に来てからは、何だか元気がないみたい。”
ぽたりと零れた哀切に、途端に息が詰まる。
「だからこの前、メモをもらった時に……花綺更さんから何か聞けたらいいなって、真っ先に思っちゃいました。ごめんなさい、貴方の善意を利用するような真似をして」
＿＿今から善意を利用しようとしているのは、こっちの方だ。
吐き捨てるように苦い言葉を、ぐっと飲み下す。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
