episode198 ページ5
出来るだけ目立たないように路地裏まで抜けてきたし、現にもう私を追っている視線の気配はなくなった。
これでようやく、背筋の伸びる緊張感から解放される。
「……はぁ…」
＿＿今まで私のことなんて、これっぽっちも気付かなかったくせに。
あの試合から、一気に掌返し。典型的なミーハーじゃないか。
なんて。
そんな憎まれ口を叩いたって、こんな有様じゃ説得力にも著しく欠ける。
何だか今は格好の付かない表情になってしまっている気がして、誰もいないのに慌てて掌で口元を覆い隠した。
(……思わず、嬉しい、と思っちゃった)
だってそれは、あの試合で誰かの心を動かしたという証拠。
どくどく、暖かな鼓動が響いている。
いつもの嫌なざわめきと違って、ずっとこの音を聞いていたいとも感じさせられてしまう。
(でも、困ったな。どうしよう)
あの視線の中を通り抜けて病院に行くというのは、あまりにも目立ち過ぎる。
もしかしてまだ怪我をしているのではないか、それとも持病があったのか。
今の私の噂となれば、拡散力は凄まじいことになる。
あれだけ試合で暴れてしまえば、恐らく既にオリオン財団にはより一層目をつけられたに違いない。
妙な隙は、相手に与えたくないところだ。
サッカーは世界有数のビッグエンターテインメント・ビジネスである。
コンクリート塀に凭れながら、思い出したくもない連中の言葉を思い返す。
こんな形に自覚することになるとは、と頭を抱えていると、いつの間にか天使の羽のような毛並みの白猫が私の隣にちょこんと座っていた。
＿＿にゃあ。
「うわ……っ、びっくりした」
考え事をしていたとはいえ、私の視界を潜り抜けて来たのだ。
だからいつの間に、とたかが猫相手に警戒してしまった。
しかしそんな心も溶かしてしまうように、可愛らしい鳴き声をあげて、私の方へと擦り寄ってくる。
その目は片方が灰青色、もう片方が琥珀色のオッドアイ。
(……あ、金目銀目。縁起が良いな)
多分野良猫だと思うけれど、どうやら人懐っこい子らしい。
確か、こうすれば猫は喜んだはず、と頭や顎をそっと撫でてやれば、またご機嫌に鳴いて返してくれる。
ふと私が笑みが溢すと白猫は唐突に、身軽に塀へと登って、私を呼ぶようにもうひと鳴き。にゃあ。
もう行ってしまうのか。可愛かったのに。
私が寂しくなって塀の方を見上げていたのを見抜いていたのか、白猫は急かすように、にゃあにゃあ、とまた鳴く。
(何、……ついてこい、ってこと？)
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
