episode224 Side Y ページ31
入浴を終えて洗面所を出ようとすれば、西蔭以外にもうひとつ、話し声が聞こえた。
(……あれ。A、来てるのかな)
細かい話の内容までは聞き取れない。
そっと扉を開けて、聞き耳を立ててみる。
しかし、Aに知られないように扉を開けるなんて＿＿つまりAの目を欺こうだなんて、100年も1000年も早かった、という話で。
ほんの数ミリの隙間から、ふとAと目が合う。
がたん、とおもむろに腰を掛けていた椅子から立ち上がったかと思えば、迷いなく真っ直ぐ、僕のいる方へと歩いてきた。
そして遠慮なく扉を開け放っては、呆れたようにも、ちょっと勝ち誇ったようにも見える曖昧な笑みで、僕の顔をじっと覗き込む。
「覗き見なんて、感心しないな」
「あーあ、残念。やっぱりバレちゃった」
ふい、と僕に背を向け、再び西蔭と話していたテーブルまで戻るAについて行く。
西蔭ははっとしたように僕の方を見ては、どこか後ろめたそうに、僕の名前だけを口にした。
「2人は、何の話をしてたの？僕も聞いてもいい話かな」
「A、……」
「じゃあ、あとは西蔭さんにお任せしますね。私はそろそろ、ミハイルにご飯をあげないといけないので」
ああ、君ってやっぱりそんな子。
西蔭は気を遣ってAにそう聞いたはずなのに、当の本人は気がつかないふりをして、平然と部屋を出て行く。
「おやすみ、悠馬、西蔭さん」
小悪魔な捨て台詞を残して。
ひらひらと、掴み所なく。
(裏を返せばそれは、“別に話してもいいよ”、ってことなんだろうけど)
相手のそれが察せるようになったこと。
そして、相手にそれを察せられるようになったこと。
それだけで西蔭とAにとっては大きな進歩だ。
「いいんだよ、西蔭。Aは僕にだけする話と、西蔭にだけする話を意識的に分けてる。どちらにせよ僕達、Aとどんな話をしたかは共有してるでしょ」
＿＿まぁ、君が隠し事してなければの話だけど。
揶揄い混じりに付け足してみたものの、西蔭は平然と、すぐに“その心配には及びません”、なんて返してくれるものだから。
ただただ安心を覚えた僕は、Aが先程まで座っていた椅子に座りながら、西蔭の心配の種であるその話の続きを継ぎ足していく。
「一星君のことを話していた時の様子で、何となくAの考えてることは分かってるよ。かつての由羽真さんやA自身、そして僕とも重なるところがあった。……どう、当たり？」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
