episode209 ページ16
本当は、雨に打たれてずぶ濡れになって帰ろうと思っていた。
だって、心臓だけじゃなくて頭と目元も熱い。
一星光くんと話した時に、色んなことを思い出しすぎたせいだと思う。
だから少しでもこの熱を雨晒しにして、地面に広がる水溜まりの中へ落として行きたかった。
(でも、)
屋根の外へ駆け出そうとした爪先が、つん、と寸で止まる。
(……あんなきらきらした目で見つめられた後で、次の試合を風邪で休んだりしたら…)
自分でも元々性格は悪い方だとは思う、けれど。
自分を好いてくれる子どもまで騙すほどの、根性の悪い人間は、どうやらなれないらしい。
(……さて、どうしたものか＿＿)
＿＿にゃあ。
可愛らしい鳴き声に振り返れば、美しい金目銀目。
ここまで連れて来てくれたあの子だ。
よく見たら、柔らかな毛の先が少しだけ濡れていた。
天使の羽みたいだったふわふわの毛並みが、ぺたんとしている。
「白猫さん。もしかして、待っていてくれたの？」
＿＿にゃあ、にゃあ。
……それって、病院の外で、私を待っていたせい？
濡れてしまって寒くないだろうか、と小さな体を抱き上げる。
とにかく、一度宿舎まで連れて行ってあげよう。
アレルギーについては聞いたことないけれど、私の部屋だけなら大丈夫だと思うし。
宿舎まで帰ったら、体を拭いて、ご飯もあげて……
ここでようやく、ああ、しまった。余計に、このままでは帰れなくなってしまった＿＿と溜息が零れた。
この子まで私と一緒にずぶ濡れにさせてしまうなんて、そんなことできない。
この状況で傘もないとなれば、雨が止むまで待ちたいところ。
でもそうしたらこの雨が止むのは、そして私とこの子が宿舎に帰れるのは一体何時になるんだろう。
(迎えを呼ぶべきか……と)
仕方ない、とポケットに入ったスマートフォンに指先が触れるのとほとんど同時くらいに、病院の方へ歩いてくる人影と、見慣れた黒い傘が遠くに見えた。
酷く焦らしでもするかのようにゆっくり此方へ歩み寄っては、手に持った大きな傘がそっと私の頭上に傾けられる。
「君に折り畳み傘は持たせてあげてたけど、天気予報が外れて、急に雨が降り始めたから」
招かれた傘の内側には、その傘よりもずっと見慣れた得意げな顔。
「Aのことだし、誰かに傘を譲っちゃうんだろうなと思って、迎えに来た訳だけど。当たりだったね」
「……お迎えご苦労さま、悠馬」
それはもう、あまりにも完璧で、嫌味なくらいかっこつけなお迎えだった。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
