231 スパイダー・ライク・インサイダー Side M ページ38
＿＿“弟の一星光くんの為だよね”。
悲鳴が入り交じった息を呑む音、耳障りだ。
しかしそれが自分から発せられていることが気付いた途端、意地でもその音を隠したくて、手に取ったばかりのティーカップをそのまま床へと叩き落とした。
「あ」
バリンッ、と陶器が割れる音。
Aは一瞬だけ驚いたように目を見開いたものの、すぐ静かに席から立ってカップの破片を床から拾い上げて始める。
「火傷はしていない？……君は動かなくていいよ。すぐに片付けるからね」
「なん、で」
乾いた口からようやく滴り落ちた声が、見下ろす位置に屈んでいたAの頭頂部に、雨粒のように降る。
「ん、……今、何か言った？ごめん、よく聞こえなくて、」
その水滴に気付いて空を見上げるかのように視線を此方に向けたばかりのAの胸倉を掴んで、そのまま背後の壁に押し付けた。
カップの破片が更に割れる音に混じって、ガン、と鈍い音が鳴る。
多分勢いで頭をぶつけたんだろう。いつもすました顔が、酷く苦しそうに歪んでいた。
「何でっ、……何で光のこと知ってるんだよ、お前！」
でも、前みたいにその顔に優越感を抱く余裕もない。
咆哮とも言える怒鳴り声を、Aに突き付けることしか出来なくて。
「……離して。そうやって暴力に訴えかけるのは、あの時の連中と全く同じだよ。気分が悪い」
珍しく愛想笑いの欠けらも無い、あからさまに嫌悪感が滲んだ表情。
白い蛍光灯の下で、目がちかちかする程のコントラストを生むその表情に怯えたのか。
それとも路地裏の“あの時の連中”と同列にされたことに、吐き気がしたか。
Aが言う通りに、パッと手を離してしまった事実だけが、そこに虚しく残されていた。
熱くなっていた俺とは対照的に、冷え切った双眸をどこか虚ろにぐらん、と揺らすA。
それに引き摺られるように、俺の頭は痛みを伴うくらいの勢いで、唐突に温度が下がっていく。
そして一周回ってなのか、笑いが込み上げ出した。
心の中は、もうめちゃくちゃだ。
「あは、は……っ、分かったよ。何であんたが、わざわざ証拠を消してやるなんて、自分にメリットのないような交渉したのかが」
言葉の続きを待つAを睨み付けながら、より最悪になった現状を自嘲的に口にする。
「光と接触したから、俺の新しい弱みを手に入れた。だからもうこんな映像も用済み……ってことか？」
「へぇ。君も案外、悪い考え方をするよね。そういうところは結構、親近感がわくよ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
