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そう言えば、と続けたAは俺とワカとベンケーを呼んだ。
「サトルくんのパパ、許す事にしたの」
万次郎たちに聞こえないよう小声で告げたAの言う"サトルくんのパパ"とは、運動会でAにわいせつを働いたセクハラ親父だ。
運動会から一週間が経ち、漸く現像された写真とビデオテープを祖母ちゃんに持って行った際に、事の流れを話した。その時の祖母ちゃんは酷く傷付いた顔をしながらも、孫に委ねたいと言っていたっけ。
ーー「Aは多分気付いていながら黙っていたの。同級生の家庭が崩壊し得ないんだから」
ーー「でも繰り返されては困るし、学校にはワカちゃんが撮ってくれたビデオを持ち込んで相談しなきゃ。大事にしたくない学校側はきっと孫を口止めするでしょうね」
ーー「Aと話をした上で判断させるわ。私は孫を傷付けたその男性を許せないし、今すぐにでもお巡りさんに突き出したいけれど……手前味噌ながら賢い子だから」
「……そうか。でもまた似たような事があれば、絶対言えよ?」
「うん!ありがとう、真くん。ビデオ撮ってくれてたワカちゃんも、怒ってくれたベンケーくんも」
Aが和かに笑うと同時、万次郎が「飛ぶぞ!」と叫んだ。ベンケーが車椅子から祖母ちゃんを抱き上げる。
「3、2、1……。ハッピーニューイヤー!!」
年を跨ぐこの一瞬地球上にいなかった、なんてくだらない話だが、皆が楽しそうにしているだけで俺は満足だ。
「あっ、圭ちゃんに焼きそば!!」
車椅子の持ち手を万次郎に預け、屋台に駆け出すA。
どうか、家族と仲間たちにとって幸せな一年になりますように。
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作者名:カーター千之助 x他1人 | 作成日時:2023年5月6日 4時