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目を覚ますと、白い天井と兄の顔が視界に入った。
兄は途端に泣き崩れ、よかったと何度も口にする。
私は、もう一週間近く眠っていた。
父は、救急車が駆けつけたときすでに、手遅れだった。
母は、自分の傷よりも心の傷の方が深く、一人部屋に籠もりっきり。
兄は、そんな母を労り、私が眠っている間の世話もしてくれていた。
それからは暫く、仕事もお休みし父の遺影の前でただただ嘆く日々だった。
あんなこと言わなければよかった。
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「....A、A。」
遠くから私を呼ぶ声がする。
「動物園楽しかったな。連れて行ってくれてありがとう。」
お父さんだ。
「やめて、、。そのせいでお父さんが、、」
「最後に家族全員が集まれたんだ、これ以上幸せなことは無い。
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いいかい、A。お父さんは後悔なんかしていない。
また次の世で会おう。必ず。
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生きるんだ。A。強く。」
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そこで私は目を覚ました。
どうやら眠ってしまったようだ。
父の言葉が頭で木霊する。
「また次の世でも、会えるかな」
切ないよ。お父さん。
はっと突然思いついた歌詞を近くにあった紙に走り書きする。
ピアノの椅子に座り、思いつくままに音を奏でる。
父に、母に、兄に、囁くように。
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弾き終わり、後ろを振り向くと、母と兄が涙を流していた。
「A、ありがとう」
あの日以来の母の笑顔を見た。
「お父さん、ありがとう。
___また、会おうね。」
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「そうして出来たのが、この曲なんです。」
私が話している間、静かに、でもたまに顔をしかめたり、笑顔になったり、そうやって聞いていてくれた。
すると突然、甘い匂いがいっぱいに広がった。
「ありがとう。話してくれて。」
「はにゅ、さん、?」
抱きしめられている。その心地よい感覚に目を閉じる。
暫くして体は離れ、見つめ合う形になった。
「もう一度、一緒に考えよっか。」
ニコッと優しい笑顔になり、そう言った。
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作者名:ふーか | 作成日時:2019年8月26日 11時