Kilimanjaro sgi ページ5
人の少ない喫茶店の中、コーヒーの匂いに包まれて、私はぼーっとしていた。隣で先輩の須貝さんが大きな欠伸をする。
「須貝さん、徹夜ですか?」
「研究よ、バッチリ徹夜」
「うわぁ、私も将来そうなるのかなぁ」
須貝さんは、日夜研究に明け暮れている。でも、それだけでは食べていけないから、この喫茶店でバイトもしているのだが、今日は特に眠そうだ。
「疲れてるなら休んだ方がいいですよ?」
「俺は元気だから心配しないの、若いうちは自分の心配しなさい」
空元気でそんなことを言われたって目の下のクマは見過ごせない。私は須貝さんを無理やり奥に座らせた。
「ここで休んでてください!」
「えっ、でも」
「私が何とか回すので!」
ただでさえお客さんが少ない平日、私と他のバイトの子だけでもどうにかなる。
その日1日、私はひたすらに働いた。須貝さんのためだと思うと、どこからかエネルギーが湧いてきて、普段の私からは考えられない機敏さでテキパキと動いた。
「ありがと、おかげで仮眠できたわ」
しばらくして、店の奥から須貝さんが出てきた。心做しか、さっきよりも顔色が良さそうに見える。
「じゃあ良かったです、私もうシフト終わりなので」
「あ、ちょっとだけ時間ある?」
「この後は暇ですけど…」
「よっしゃ、奥来て」
須貝さんは私の手を引いて、staffonlyの扉をくぐる。小さな机には、淹れたてのコーヒーがあった。
「俺の分まで仕事任せちゃってごめんね?これくらいしか出来ないんだけど、とりあえずお礼」
「いやいや、私が勝手にやったことですし…」
「まあまあ、とりあえず飲みなさいよ」
須貝さんに急かされてコーヒーを啜る。私の好きなキリマンジャロの苦みが口の中に広がった。
「えっ、須貝さん私がこれ好きなの知ってたんですか?」
「色んな子に聞いてきた、ちなみにそのチョイス俺と同じ」
ちょっとちょうだい、と言って何も気にせずに私と同じカップからコーヒーを啜る須貝さん。あまりにも自然なその仕草に、逆に胸がドキドキする。
「起きた時ここのちっちゃい窓からさ、」
須貝さんは扉についた小さな窓を指さした。
「Aちゃんが一生懸命働いてるの見えて、あぁ好きだなぁって思ったんだよね」
「えっ?」
「俺と付き合う気はございませんか?」
彼らしくちょっとふざけて、でも真面目な顔で伝えられた一言。キリマンジャロの香りの充満した小さな部屋から、私たちの恋は始まった。
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カルボン(プロフ) - ぶっく。さん» 正直言うと、須貝さんあたりで「あれ、あと二つもいけるか?」ってなっていましたが、頑張りました!(笑)ぶっくさんもさいかいからあい完結おめでとうございます。楽しみに読んでおりました! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - はるむににさん» 無事完結しましたー!!今まで私の書くこうちゃんはだいたいヘタレだったので、今回は趣向を変えて。。「大人になったんだね」っていう言葉から着想しました! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - フェレットさん» 今作も毎日コメントありがとうございました!!本当に支えられております。次作も是非!よろしくお願いしますね! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - まず喫茶店テーマで7作品もこんなに綺麗に書けるカルボンさん、めちゃくちゃすごいです…!どの話もふたりの距離感がなんだか優しくて大好きです。これからも応援しています! (2020年3月30日 23時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
フェレット(プロフ) - かっこ良いこうちゃんは大好きです!次回も楽しみにしてます! (2020年3月30日 12時) (レス) id: 88923771a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カルボン | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月20日 0時