CafeLatte kwmr ページ3
「混雑しておりますので、譲り合ってのご着席をお願いします」
馴染みの喫茶店。仕事が溜まりに溜まって、今日は長居しようと思った日に限ってこんなことを言われてしまった。
いつものカフェラテを頼んで、席につこうとしたはいいものの、空いているのは4人用のテーブル。1人で座るのもなぁ、とたじろいでいた時だった。
「あの、ここで良ければ座っても大丈夫ですよ?」
声のした方を向くと、メガネをかけた綺麗な顔立ちの男性が、2人がけの席で微笑んでいた。
「あ、でも私長居しますし、パソコンも広げるかと…」
「構いませんよ、僕も同じなので」
「では失礼します…」
男性の向かいに座り、パソコンを広げる。程なくして彼もパソコンを開いて作業し始めて、心地よい静寂が訪れた。
いつもは理由をつけてすぐ休憩してしまう私だけれど、向かい側で集中している彼の眼差しを見るとどうにも休憩できない。気付けば驚くほど仕事が捗っていた。
ふと、男性の携帯が鳴る。彼はすみません、と呟いて電話をとった。
「もしもし河村です、今喫茶店におりまして、またかけ直しても宜しいでしょうか…」
彼の名前は河村さんと言うらしい。同じ席に座ってもう1時間も経っているのに、そういえば名前すら知らなかったんだなぁと気付いた。彼には不思議な安心感がある。
「河村さん、とおっしゃるんですね」
電話を切った彼に話しかけてみる。彼はふっと口角をゆるめて答えた。
「ああそうか、自己紹介がまだでしたね。僕は河村といいます。あなたは?」
「Aです」
「Aさんですか、いいお名前ですね」
私の名を呼ぶ河村さんの声が綺麗だった。たったそれだけなのに、心臓がさっきからうるさい。一度意識してしまったら最後、集中力はどこかへ飛んでいってしまった。
河村さんを見ないように目をそらしていると、ごくんごくんと喉の鳴る音。河村さんの紅茶を飲むペースが上がった。そろそろ時間なのかもしれないという不安がぐるぐると渦巻く。
最後の一口を飲み終えた河村さんが席を立つ。ああ、お別れの時間だ。挨拶をしようと見上げると、河村さんが持っていたのはお財布だけだった。
「Aさんのカフェラテ、美味しそうだから僕も頼んできますね」
あとそれ良ければ読み込んどいて下さい、と河村さんが指さしたスマホにはLINEのQRコード画面。数分後、カフェラテを手に帰ってきた河村さんの顔はどこか赤くて。彼に溺れていく予感がしていた。
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カルボン(プロフ) - ぶっく。さん» 正直言うと、須貝さんあたりで「あれ、あと二つもいけるか?」ってなっていましたが、頑張りました!(笑)ぶっくさんもさいかいからあい完結おめでとうございます。楽しみに読んでおりました! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - はるむににさん» 無事完結しましたー!!今まで私の書くこうちゃんはだいたいヘタレだったので、今回は趣向を変えて。。「大人になったんだね」っていう言葉から着想しました! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - フェレットさん» 今作も毎日コメントありがとうございました!!本当に支えられております。次作も是非!よろしくお願いしますね! (2020年3月31日 12時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
ぶっく。(プロフ) - まず喫茶店テーマで7作品もこんなに綺麗に書けるカルボンさん、めちゃくちゃすごいです…!どの話もふたりの距離感がなんだか優しくて大好きです。これからも応援しています! (2020年3月30日 23時) (レス) id: 19fcfdccc5 (このIDを非表示/違反報告)
フェレット(プロフ) - かっこ良いこうちゃんは大好きです!次回も楽しみにしてます! (2020年3月30日 12時) (レス) id: 88923771a6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カルボン | 作者ホームページ:
作成日時:2020年3月20日 0時