漆拾参 “〃 (5)” ページ32
「俺の目が、か?」
首を傾げる彼に、にこりと微笑んだ。
不思議そうな顔をして此方を見る彼は恐らくよく判っていないのだろう。
『私は貴方の目が海に似ていると思うんです。透き通った迚も綺麗な、あの青く、何もかも包み込むような優しさを含んだ広い海を……そこに今、夕陽が合わさっているのでこの景色によく似ているな、と思いまして』
私の言葉に彼は何やら考え込んでしまった。
この人は何処か自分を卑下する所があるが、そんな事しなくても善いのにと苦笑する。
だって彼は迚も優しい。
その優しさに私は偶に泣きそうになり、縋ってしまいそうにもなる。
その時は必死に耐えているが白麒麟と出会った時は恥ずかしながら縋ってしまった。
「ならAもだな」
『……私も、とは?』
考え込むのに無意識的に目線を下げていた彼が不意に顔を上げて、そう告げた。
確かに私は彼と似た境遇なのだが、一体何が同じなのだろうか?
「俺とAの目は同じ色だろう?俺もお前の目は綺麗だと思っていた」
『?私の目は貴方と同じでは』
無いと云いかけた所でハッと気が付く。
そうだ、そうだった……今の私の目はあの子と同じ色だった。何故忘れていたんだ。
本来の瞳の方はケジメとして眼帯で隠していたじゃないか。
視線を彼から外して、そっと右の目尻近くの下瞼に触れた。そして少し口角を上げる。
『そうでしたね。えぇ、私もこの色好きなんです、私にとって迚も大切な色ですから……』
「先刻から思っていたが、何故そんな悲しそうに笑うんだ」
『それは気の所為でしょう、作之助さんは寝起きですからね』
「そんな事……」
丁度彼の言葉を遮る様に「おーい!」と太宰さんが手をぶんぶんと振りながら走って来る。
後ろの方には安吾さんと仁も居る。
立ち上がり三人の方へ行こうとすれば作之助さんに左腕を掴まれたので、もうこの話は終わりだと告げようとすれば、先に彼が口を開いた。
「いつか話してくれるか?御前が何時も無理している理由を」
『……えぇ、必ず。なので秘密にしておいて下さい。私と貴方、二人だけの秘密です』
さぁ行きましょう、と告げて彼の手を握れば彼はそれ以上問い質さずに黙ったまま優しく握り返してくれる。
そういう所もですよ、私が貴方を優しいと思うのは……
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(「(俺の手を引く御前が、何時か目の前から消えてしまいそうな気がして……なんて杞憂であって欲しい)」)
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黒龍(プロフ) - Mさん» 嬉しいお言葉、有難う御座います^^ (2019年11月23日 17時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
M - とてもおもしろかったです。 (2019年11月23日 1時) (レス) id: 5a0fa58d7d (このIDを非表示/違反報告)
黒龍(プロフ) - りーこさん» 有難う御座います!頑張って続き書いていきますね (2019年6月24日 12時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
りーこ - 続きが楽しみです (2019年6月24日 6時) (レス) id: 140e75a81a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒龍 | 作成日時:2019年6月21日 21時