伍拾参 “〃 (5)” ページ11
不思議そうな顔をしている坂口さんに、昔、炳五が云っていた言葉を告げようと思い、口を開く。
此処迄似ているのだから、恐らく同じ考えを持っている筈だと思ったからだ。
『坂口さんは首領が厭がると判っていても、こういう風に纏めたのは、“彼等は皆、静けさを手に入れた。誰も彼等から静けさを奪うことは出来ない。この書類に纏められた情報は彼等の生命の痕跡であり、“四人死亡”と云う報告書には決して載ることのない彼等の息づかい”……とでも思っているからでしょう?』
「何故そう思ったので?」
坂口さんの顔を見て判った。
彼が炳五と同じ考えを持っていたという事に。
私は炳五と話しているみたいで嬉しくなった。
『ふふ、勘ですよ。さあ、さっさと首領にこの書類を押し付けに行きましょう。首領の驚く顔を早く見たいですし』
「貴女は変わった人ですね」
坂口さんは、そう云うと立ち上がって先に扉の方へと向かったのだが突然立ち止まり振り返った。
「呼び方、安吾で善いですよ。呼び難そうなのが丸解りです」
意外と彼は細かな所まで気付いていたらしい
まさかバレるとは思わなかった。
『バレていましたか……では改めて安吾さん、之からも素敵な書類を頑張って提出して下さいね。少し心苦しい気持ちもありますが楽しみにしてます』
彼が書いた死者の人生録を読む事が出来るという事は、その分、人が死ぬという事だ。
極力死者を増やさない様に任務について行き忠告したりするのだが、それでも一つの抗争で必ず一人は死んでしまう。
……誰も死なずに済む方法があるとすれば屹度それは────。
俯いてしまった私の肩を彼はポン、と優しく叩いた。
「死者が増えるのは僕にとっても嬉しくありません。ですが、まあ、貴女の期待に応えられるようには頑張りますよ」
首領の驚いた顔を見るのでしょう?と悪戯っ子の様な笑みを浮かべている安吾さんに、そうですねと笑い乍ら返し、共に事務所を出た。
*
案の定、首領に報告書を見せた時は厭だというオーラを発していたが、組織全体の実情を知る貴重な情報源だと云えば、それもそうか、と納得して貰えた。
……期待していた首領の驚いた顔は見れなかったので少し残念だったが、読んでもらう事に成功したので私と安吾さんは互いの顔を見合わせて、密かに笑い合ったのだった。
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黒龍(プロフ) - Mさん» 嬉しいお言葉、有難う御座います^^ (2019年11月23日 17時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
M - とてもおもしろかったです。 (2019年11月23日 1時) (レス) id: 5a0fa58d7d (このIDを非表示/違反報告)
黒龍(プロフ) - りーこさん» 有難う御座います!頑張って続き書いていきますね (2019年6月24日 12時) (レス) id: 9b97ad947e (このIDを非表示/違反報告)
りーこ - 続きが楽しみです (2019年6月24日 6時) (レス) id: 140e75a81a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:黒龍 | 作成日時:2019年6月21日 21時