▽たった1人の兄 ページ5
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平『あんな、さっきも言ったかもしれんが人を助けんのに立場や階級は関係ないねん。それにアンタが俺に酷いこと言うたわけやない。しゃあから俺に謝る必要なんてないねん。』
『け、けど.....』
平『けどやない。...でもそれでアンタが納得出来ひんのなら、"ごめんなさい"より"ありがとう"の方が嬉しいわ。』
たったその一言だけなのに、心の奥底で支えていたものがなくなっていく。
『あ...ありがとうござい、ました....!』
平『...ん、』
眉間に皺を寄せた険しい表情から柔らかい表情へと変わって、少しだけ身体の体温が上がったのは気のせいなのかな.....。
平『そういやちゃんと名前言っとらんかったな。平子真子や。あ、後様付け禁止な。堅苦しいの嫌いやねん。アンタは?』
『A....浦原Aです。』
平『A、か。かわええ名前やん。
....言いにくいこと聞くかもしれんけど、あの男ほんまにAちゃんの兄貴なんか?兄貴にしてはえらい高圧的やったけど。』
『血は、繋がってません。本当の兄は、生まれてすぐにいなくなりました。』
平『.......、』
『兄は、少しでも安全な生活が出来るように、貧しい思いをしないように....今の家に私を預けて、それで.....、』
兄が私を預けた時、私はまだ幼子で兄の顔も声も一切記憶にない。だけど私よりも強く秀逸な人だったと話を聞く。
"私じゃなく、兄だったら"
その言葉を、何度耳にしたかわからない。その度に私の居場所は少しずつ、なくなっていった。
『だけど....だけど、どんだけ貧しくても....どんだけ危険でも....私は、お兄ちゃんに一緒にいてほしかった.....!』
我慢できず涙が溢れてくる。こんなこと、平子副隊長に言っても困らせるだけなのに、迷惑になるだけなのに。
謝ろうと顔をあげるとその視界はすぐに真っ黒に覆われた。
『平子、副隊長.....?』
平『......、』
気づけば、平子副隊長の腕の中に閉じ込められていた。
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作者名:とり天 | 作成日時:2023年8月15日 16時