トロッコ問題【文々。】 ページ47
「〜♪」
ここが戦場であるにも関わらず、アオイは鼻歌を歌いながら笑っていた。緊張など微塵も感じ取れないその表情は、狂気とも取れる。
対して横に立つ雨月とナミノには不安が見て取れる。
「……っ、ナミノです」
震えながらナミノがドアを開けた。いらっしゃい、と声が聞こえた。ゆっくりと二人が中に入っていく。アオイは立ち止まったままだった。
中に入っていこうとした雨月が足を止める。
「アオイさん、来ないんですか?」
振り返った雨月に、アオイは笑顔を消した。
「……君、何か勘違いしてないかな」
「え?」
何を、と続ける前に、アオイが言葉を続けた。
「私の仕事は君達を助けることじゃないんだよ」
まるで裏切られたように感じた。てっきりアオイも同行するとばかり思っていたのだ。この人は一体どういうつもりでそう言ったのか。それは自分に分かることではない。ただ一つ言えることは、いつものように優しげな笑みを浮かべていないアオイが目の前にいる、それだけだった。
「……トロッコ問題って知ってる?」
「五人を見殺しにするか、一人を殺すか……やろ」
振り向かないナミノがそう言った。トロッコ問題というのは、「ある人を助けるために他の人を犠牲にするのは許されるか?」という形で功利主義と義務論の対立を扱った倫理学上の問題である。暴走するトロッコの先に五人の作業員と一人の作業員がおり、線路を切り替えなければ五人が死ぬが、線路を切り替えることで一人の犠牲で済むというもの。
「そう。私はその場合迷わず五人を捨てる」
多くの人はここで『助かる人数は多い方がいい』と一人を助けることが多いようだ。
「……どうして」
「だって見殺しにしとけば、私は関わってないんだよ。罪に問われることはない。それと同じ。私は君達の手助けをして政府に反逆するつもりはない。私は自分が可愛いからね、君みたいに無謀な戦いはせずに逃げるよ?」
「……ええよ。姉ちゃんはそれが正しいと思ったんや。無理にワイが強制することやない」
「ありがとうナミノ。それじゃあね」
笑顔で扉を閉めたアオイは、宣言通り逃げようとはせず、扉の前に立つ。
「……逃げないの?」
「後でー。私、透明の髪について知りたいからさ。じゃ、アキ。戦闘はよろしくね」
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?胡桃_美咲翔?(プロフ) - 作りました!!パスワードは同じです!! (2020年3月23日 16時) (レス) id: 18eae7edc1 (このIDを非表示/違反報告)
天秋(プロフ) - ?胡桃_美咲翔?さん» ふあいとー! (2020年3月23日 16時) (レス) id: f69f9f0f1e (このIDを非表示/違反報告)
?胡桃_美咲翔?(プロフ) - ちょ、おけおけ、作るからまっててw (2020年3月23日 16時) (レス) id: 18eae7edc1 (このIDを非表示/違反報告)
蓮@雫3318(プロフ) - ?胡桃_美咲翔?さん» さぁてくるっちゃん…続編のお時間だぁ! (2020年3月23日 16時) (レス) id: 57a1a02777 (このIDを非表示/違反報告)
蓮@雫3318(プロフ) - 天秋さん» そゆことかな。 (2020年3月23日 16時) (レス) id: 57a1a02777 (このIDを非表示/違反報告)
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