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「じゃあ、お先に」
「あっ、お疲れ様です」

 十八時になった瞬間、向かいの列の槙田(まきた)さんが慌ただしく席を立った。

 最近いつもこうだ。できるだけ残業を減らそう、という方針の職場ではあるけれど、それにしたって近頃の彼女は急いでいるように見える。
 不思議に思っていると、隣のデスクの雛森(ひなもり)さんが話しかけてきた。彼女は私と同期だ。

「槙田さん、最近忙しそうですね」
「雛森さんもそう思います?」
「うん。お家で娘さんが待ってるからですかね」
「あ、それかもしれませんね」

 槙田さんは私の先輩で、入社したときからよく面倒を見てもらっている。家庭を持っており、夫婦共働きで「ここみちゃん」という名前の小学生の娘さんが一人いると聞いたことがある。

「Aさん、私たちもささっと終わらせちゃいましょう」
「ですね」

 今日は剣城が夕食を作ってくれる日だ。献立は何だろうか。お腹の音が鳴らないように気を付けながら、仕事の仕上げにとりかかった。



「A、今週の土曜日はお休みだよね?」

 夕食は鮭のホイル焼きだった。ソファに寝そべりながら焼き上がるのを待っていると、天馬が私を覗き込んできた。

「うん。そうだよ」
「よかったら、俺の仕事について来る?」

 驚いて起き上がると、空いたスペースに天馬が腰を下ろした。

「え、いいの?」
「うん。気になるんでしょ?」
「……じゃあ、行ってみたい」
「わかった! 予定空けといてね」

 まばたきをすると、天馬はいつの間にか消えていた。今日の天使は夜勤らしい。

「やめておけ」

 そう言いながら、剣城が夕食を机に並べた。

「え……?」
「俺だったら絶対について行かない」

 天使の仕事のことを指しているのだ、ということはわかった。「どうして?」と聞こうと思ったが、次の瞬間には彼はもういなくなっていた。

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作者名:春間 | 作者ホームページ:https://twitter.com/April_hrm  
作成日時:2022年9月11日 15時

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