*21−2* ページ36
そしてある日、其の男は現れました。
不思議な白い帽子と格好に、紫掛かった黒髪、あの人とは違う暗く深い紫の瞳が私を捕らえたのです。
あの人が望むモノを持っている少年が居ると云ふ情報を私にくれたのです。
対価は後で良いと、そう告げるとその男は去って行きました。
この事を伝えると、あの人は直ぐに行動に移しました。
孤児院へ行き、あの人とは違う白を纏った少年を実験台に座らせたのです。
私は少し用事があり、席を外しました。
あの男と会って対価について少し話をしていたのです。
それがいけなかったのでしょう。
予感がして、私があの人の名を呼び実験室に足を踏み入れた時に見たものは、見慣れた光景ではなかったのです。
少年は虎となり、あの人の美しい顔を引き裂いていました。
それから私が見たものは、あの人の白ではありませんでした。
朱く、朱く、捨てられたあの日より嗅ぎ慣れた酷く苦い死の香り。
少年は肩を震わせ、あの人は床に伏せて朱を異常な程に滴らせ、私はと云うと、ふらふらとあの人の元へと手を伸ばしたのです。
そして、あの人の酷く嬉しそうで、また、驚いた顔を、私は初めて見たのです。
そんな顔を見て、私はあの人の役に立てたのだと、あの人の為に尽くせたのだと思ったのと同時に。
私は生きる意味を失ったのだと漸く理解したのです。
何故なら、あの人の中身は既にこの世に無かったのです。中身であった筈の命と云ふ輝きは、これまでの実験で失った命の様に光を無くしていたのです。
共に生きると誓った私達にとって、それは酷く固い誓いとなっていました。
あの人が死んだ今、私も死なねば。
そう思い、私は手持ちの果物ナイフで自ら命を絶ったのです。
絶った、筈だったのです。
気が付いた時には、私は質素な布団の上に寝かされていました。
隣でくつくつと笑う其の男は酷く見覚えがありました。
全てこうなる事を予想していた其の男は、直ぐに対価の話を私に持ち出しました。
そして其の男は言いました。
私も異能力者であると。
あの人を失った今、そんな事はどうでも良いと、早く死なせてくれと何度思った事でしょう。
でも、其の男は話をこう続けたのです。あの人は蘇ると。
私は其の言葉に酷く驚いたと共に、一度失ったあの人の輝きが戻るのかと不思議に思ったのです。
そして、その後。
其の男の言った通りに成りました。
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フェミロ - まろりんさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます。只今、番外編&NG集等を作成中です。ご意見頂いた物語も書かせて頂きたいと思います。ありがとうございます。 (2018年4月29日 8時) (レス) id: af47f06155 (このIDを非表示/違反報告)
まろりん - 泣きました( ;∀;)もし番外編の機会があったら死後、彼らの幸せな場面を見てみたいです。フョードルルートも。 (2018年4月14日 0時) (レス) id: 631d19327a (このIDを非表示/違反報告)
フェミロ - Rukaさん» そう言って頂けて嬉しいです。ありがとうございます。頑張ります。 (2018年3月29日 8時) (レス) id: a574a862fc (このIDを非表示/違反報告)
Ruka(プロフ) - すごく感動しました!!!次の作品も頑張ってください!! (2018年3月26日 15時) (レス) id: aecad8101e (このIDを非表示/違反報告)
フェミロ - ご指摘ありがとうございます。外し忘れていましたので直しました。ありがとうございます。 (2018年3月15日 22時) (レス) id: af47f06155 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:フェミロ | 作成日時:2018年3月15日 21時