続き。 ページ4
芥川は何も言わなかった。ただうつ向き、悔しそうに震えて唇を噛み締めている。
「質問に答えろ。その手袋はなんだい?私はあげた覚えなどないのだけど」
かつかつと靴を鳴らしながら芥川に近づく。それに比例する如く芥川もあとずさったが、何せ此処は袋小路。
行き止まりについてしまった。
「どうしてもだんまりか。なら」
やがて互いが触れれるような距離まで近づいた太宰は、芥川の手首を引っ張った。芥川が痛みに顔を歪める。
そして強引に手袋を取って近くに投げ捨てた。
「………説明が欲しいね」
しかし現れたのは、所々血が滲んでい痛々しい切り傷があるだけだった。
両手の手袋を取れば、両手にそれがあった。
「なんだいこの傷は」
「………これは…」
漸く芥川が口を開くも、それっきりだ。しかし太宰も、それが何か薄々感づいてしまった。
恐らく、自傷行為だろう。この手袋のデザインも、きっと中也に押し付けられたのだ。
「…すみませんでした」
「理由も分からないのに謝られも困るね」
見なくてもそれは分かることだった。傷があるのは手だけではない。腕も、足も、手の届く所に大抵切り傷があるのだろう。
「………芥川君」
太宰はいつになく冷静な声でいった。冷徹でない、冷徹な太宰の声に芥川はほんの少し視線をあげた。
が、刹那太宰は芥川の頬を殴り付けた。芥川が軽く吹っ飛び、頭をぶつけて鈍い音をたてる。
「…やめておくれ」
それでも、太宰の声は芥川より苦しそうだった。
**
如何してもやめることが出来ないのは何故だろうと、毎回芥川は疑問だった。寝れない時、嫌な夢を見た時、暇な時、気づけば片手に刃物を持っていたのだ。
そして気づけば見るところ全てに傷があり、一度中原にも殴られた。これ使っとけと渡された手袋を今でもつけているのはせめてものお詫びだった。
そして嵐のように現れた太宰も、やめておくれと確かに芥川に言った。
芥川はもう一度謝罪の言葉を述べる。太宰は何も言わずに手袋を踏みつけた。
しかし芥川は膝を抱えてうわ言のようにまだ謝罪を述べている。
もう太宰は去ったというのに、芥川は瞳いっぱいに涙を溜め、傷だらけの手を擦った。袋小路に吹いた風は芥川の手を冷たく刺した。
♀♂
本当は優しくしたいけど出来ない太宰さん。
63人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
羅生門 - 体が痛む。 (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
羅生門 - karadagaitam (2021年4月5日 14時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
kyo - 誰が見ても認める美貌の持ち主の芥川さんは、驚くほど食事の量が少ないので食べ残しは私が食べます。(きりっ) (2017年8月25日 10時) (レス) id: b8f51b6520 (このIDを非表示/違反報告)
なかゞわとまと - マジカルワールドさん» 本当に申し訳ないです…!ありがとうございます! (2017年6月10日 23時) (レス) id: 59e0ee862d (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なかゞわとまと | 作成日時:2017年4月22日 1時